美的数学のすすめ

初等整数論のうち、平方剰余の相互法則の意味を当面の目標としたいと思います。ゆくゆくは、ガウス和、円分体論まで到達したいです。

既約剰余類群の部分群

 円分体のガロア群\(\mathrm{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_{p})/\mathbb{Q})\)は、\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)と同型ですので、ガロア対応を考えるには\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)の部分群が必要となります。今回は、\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)の部分群について考えてみます。\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)は巡回群ですので、「巡回群の部分群は巡回群」で尽きているようにも思いますがそうではありません。ここではより具体的に部分群を構成することにより、ガウス周期との関係や(将来的には)平方剰余の相互法則との関係も見えてくると思います。

 \( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)の部分群

 \(p\)を素数とするとき\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)は巡回群となります(原始根存在定理)。

原始根の存在定理-剰余類の基本的な性質(その3) - 美的数学のすすめ

原始根の存在定理(その2) - 美的数学のすすめ

 \( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)が巡回群となることは次の場合の特殊な場合と理解することができます。

  1. 体(無限体を含む)の有限な乗法群(体の掛け算を演算とする群)は巡回群である。(このことから、有限群\(\mathbb{F}_{q}\)の乗法群\(\mathbb{F}_{q}^{\times}\)は巡回群であることが分かります。)

  2. \(p\)が奇素数のとき\( (\mathbb{Z}/p^{n}\mathbb{Z})^{\times}\)は巡回群である。(\( \mathbb{Z}/p^{n}\mathbb{Z}\)は\(n\geqq 2\)のとき体ではありませんので、この事実は上の1.には吸収されません。)

 位数(群の要素の個数)が\(n\)の巡回群の部分群は\(n\)の約数1つに対し、1つ存在することが知られています。\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)は位数\(p-1\)の巡回群ですので\(p-1\)の約数1つに対して、1つの部分群が存在することが分かります。以下、具体的に考えてみます。

 \(p=5\)の場合

 \( (\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^{\times}\)は位数4の巡回群ですので、原始根の1つを\(r\)とすると、 \[ (\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^{\times}=\{1,r,r^{2},r^{3},r^{4}\}\]

ですので、このうち位数2の部分群\(H_{2}\)は、

\[H_{2}=\{1,r^{2}\}\]

と表されます。(なお、以下は原始根\(r\)の取り方に依存しません。以下同様です。) つまり、これは\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)の平方剰余な元からなる集合です。つまり、 \[H_{2}=\{r^{2m}\ \ |\ \ m:\text{整数}\ \ \} \]

です。またこれは次のようにも変形できます。(多くのテキストでは下記が平方剰余の定義とされています。) \[ H_{2}=\{n\in (\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^{\times}\ |\text{ある}x\in(\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^{\times}\text{が存在して}x^{2}=n \}\]

 更に、\( (\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^{\times}\)の元は4乗すると1となることから(Fermatの小定理)、平方剰余な元は、2乗すれば1になることが分かります。逆に2乗すれば1となる元は平方剰余であることも分かります。したがって、\(H_{2}\)は次のようにも表せます。

\[ H_{2}=\{n\in (\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^{\times}\ |\ n^{2}=1\ \}\]

 \(H_{2}\)を具体的表すと \[ H_{2}=\{1,4\}\] です。

\(p=7\)の場合

 \( (\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\)は位数6の巡回群ですので、位数2,3の部分群が1つずつ存在するはずです。位数2の部分群を\(H_{2}\)、位数3の部分群を\(H_{3}\)とします。

位数2の部分群\(H_{2}\)

 \( (\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\)の原始根の1つを\(r\)とすると

\[(\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}=\{1,r^{2},r^{3},r^{4},r^{5}\}\]

ですので、位数2の部分群\(H_{2}\)は

\[H_{2}=\{1,r^{3}\}\]

です。つまり、これは\( (\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\)の立法剰余な元からなる集合です。つまり、 \[H_{2}=\{r^{3m}\ \ |\ \ m:\text{整数}\ \ \} \]

です。これはまた、 \[ H_{2}=\{n\in (\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\ |\text{ある}x\in(\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\text{が存在して}x^{3}=n \}\]

と変形できます。

 更に\( (\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\)の元は6乗すると1となることから(Fermatの小定理)、立法剰余な元は、2乗すれば1になることが分かります。逆に2乗すれば1となる元は立法剰余であることも分かります。したがって、\(H_{2}\)は次のようにも表せます。

\[ H_{2}=\{n\in (\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\ |\ n^{2}=1\ \}\]

 具体的表すと \[ H_{2}=\{1,6\}\] です。

位数3の部分群\(H_{3}\)

 \[(\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}=\{1,r^{2},r^{3},r^{4},r^{5}\}\]

ですので、位数3の部分群\(H_{3}\)は

\[H_{3}=\{1,r^{2},r^{4}\}\]

です。つまり、これは\( (\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\)の平方剰余な元からなる集合です。つまり、 \[H_{3}=\{r^{2m}\ \ |\ \ m:\text{整数}\ \ \} \] これはまた、

\[ H_{3}=\{n\in (\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\ |\text{ある}x\in(\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\text{が存在して}x^{2}=n \}\] と変形できます。

 更に、\( (\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\)の元は6乗すると1となることから、平方剰余な元は、3乗すれば1になることが分かります。逆に3乗すれば1となる元は平方剰余であることも分かります。したがって、\(H_{3}\)は次のようにも表せます。

\[ H_{3}=\{n\in (\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\ |\ n^{3}=1\ \}\]

 具体的表すと \[ H_{3}=\{1,2,4\}\] です。

一般の\(p\)の場合

 \( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)は位数\(p-1\)の巡回群ですので、\(p-1\)の約数毎に1つの部分群が存在します。\(f\)を\(p-1\)の約数とすると、位数\(f\)の部分群\(H_{f}\)は、上の方法と同様に①\(\frac{p-1}{f}\)乗剰余と考える方法と、②\(f\)乗して1になる数と考える方法があります。

 \(p\)を素数、\(f\)を\(p-1\)の約数とするとき\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)は位数\(f\)の唯一の部分群\(H_{f}\)をもつ。このとき、

  1. \(H_{f}=\{r^{\frac{p-1}{f}m}\ \ |\ \ m:\text{整数}\ \ \} \)

  2. \(H_{f}=\{n\in (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\ |\text{ある}x\in(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\text{が存在して}x^{\frac{p-1} {f}}=n \}\)

  3. \( H_{f}=\{n\in (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\ |\ n^{f}=1\ \}\)

部分群\(H_{f}\)の剰余類

\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)は、位数\(f\)の部分群\(H_{f}\)を用いて下記のように分解できます。

\[ (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}=H_{f}+r^{(\frac{p-1}{f}+1)}H_{f}+r^{(\frac{p-1}{f}+2)}H_{f}+\cdots+r^{(\frac{p-1}{f}m+(m-1))}H_{f} \]

このことから、部分群\(H_{f}\)を法とする\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)の剰余類群(アーベル群の部分群は常に正規部分群です。)は、 \[r^{(\frac{p-1}{f}+i)}H_{f}=\{r^{(\frac{p-1}{f}m+i)}\ \ |\ \ m:\text{整数}\ \ \} \] で代表されることが分かります。

ガウス周期との関係

 \[r^{(\frac{p-1}{f}+i)}H_{f}=\{r^{(\frac{p-1}{f}m+i)}\ \ |\ \ m:\text{整数}\ \ \} \] に含まれる各元を\(\zeta_{p}\)の肩に乗せて足しあわせるとガウス周期となります。(これがガウス周期の定義です。)

n=7の場合のガウス周期 - 美的数学のすすめ

n=13の場合のガウス周期 - 美的数学のすすめ

つまり、ガウス周期とは、円分体のガロア群\(\mathrm{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_{p})/\mathbb{Q})\)の部分群\(H_{f}\)を法とする剰余類(の1つ)に含まれる元を\(\zeta_{p}\)の肩に乗せて足し合わせたものであることが分かります。

 これはガウス周期の定義そのものであり、特に目新しいものではありませんが、次回、円分体のガロア対応を考えることにより、更にガウス周期の意味が明確になります。