美的数学のすすめ

初等整数論のうち、平方剰余の相互法則の意味を当面の目標としたいと思います。ゆくゆくは、ガウス和、円分体論まで到達したいです。

原始根の存在定理(その2)

 前回に引き続き、原始根の存在定理が成立するもう一つの類型について解説します。

 \(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)の原始根とは、\(p-1\)乗してはじめて\(1\)になる\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)の元のことをいいました。そして、原始根が存在することと、\((\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)が巡回群になることが同値であること、また、原始根とは巡回群の生成元であることが分かりました。(see 原始根の存在定理-剰余類の基本的な性質(その3) - 美的数学のすすめ)

 今回は、原始根が存在する(つまり剰余群が巡回群となる)もう一つの類型をご紹介します。

2.2 素数べきの既約剰余類群

 \(p\)を奇素数(奇数でかつ素数)、\(n\)を自然数とし、剰余類\(\mathbb{Z}/p^{n}\mathbb{Z}\)を考えます。つまり、整数を\(p^{n}\)で割った余りからなる集合です。

\[ \mathbb{Z}/p^{n}\mathbb{Z}= \{ 1,2,3,\cdots, p^{n}-1 \pmod{p^{n}}\}\]

です。(\( \bar{1},\bar{2}\)などの\(\bar{ }\)は省略しています。)

 このうち、既約な元(つまり、乗法について逆元をもつ元)からなる集合を既約剰余類群といい\((\mathbb{Z}/p^{n}\mathbb{Z})^{\times}\)と記します。既約剰余類群は、位数(元の個数)は\(\varphi(p^{n})\)です。(see Eulerのファイ函数 - 美的数学のすすめ

 一方、\(\varphi(p^{n})=p^{n}-p^{n-1}\)です。(see Eulerのファイ函数(その2) - 美的数学のすすめ

 よって、\((\mathbb{Z}/p^{n}\mathbb{Z})^{\times}\)は、位数\(p^{n}-p^{n-1}\)の群であることが分かります。このとき、次が成立します。

 \(p\)を奇素数、\(n\)を自然数とするとき、既約剰余類群\((\mathbb{Z}/p^{n}\mathbb{Z})^{\times}\)は、巡回群である。

 上の定理で\(n=1\)とすると、\((\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)が巡回群であること、つまり\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)に原始根が存在することが分かります。このように、原始根存在定理は、上の定理の特殊な場合と理解することができます。

 なお、前回、有限体の乗法群(更に一般的には、(無限)体の有限乗法群)も巡回群となることをご紹介しましたが(see 原始根の存在定理-剰余類の基本的な性質(その3) - 美的数学のすすめ)、\(n\)が2以上の場合、\(\mathbb{Z}/p^{n}\mathbb{Z}\)は体ではありませんので、今回はこれとは別の事象であることが分かります。

 \(n\)が2以上の場合\(\mathbb{Z}/p^{n}\mathbb{Z}\)が体でないことは、次のように分かります。体とは0を除く全ての元が乗法に関する逆元(逆数)をもつ集合のことです。もし、\(\mathbb{Z}/p^{n}\mathbb{Z}\)が体であるとすると、このうち逆元をもつ元からなる集合である既約剰余類群\((\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)の位数は、\(p^{n}-1\)になるはずです(逆元がない元は\(0\)の1つだけ)。したがって、 \[ p^{n}-p^{n-1}=p^{n}-1\] よって、\(n=1\)となります。このことより、\(n=1\)の場合だけ体になることが分かります。

2.3 既約剰余類の構造

 ここまでくると、一般の自然数\(m\)に対して\((\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})^{\times}\)が巡回群となるのか気になるところです。しかし、残念ながら、常に巡回群になるわけではありません。

(例) \(m=4\)とすると\(\varphi(4)=4-2=2\)ですので\((\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})^{\times}\)は位数2の群となります。( 群論の知識をつかえば、素数位数の群は巡回群と分かりますので、位数2から直ちに巡回群であることが分かりますが、ここでは具体的に見てみます。)\((\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})^{\times}\)は、\(4\)と互いに素な\(\bmod{4}\)の自然数ですので \[(\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})^{\times}=\{ 1,3 \pmod{4}\}\] です。そして、\(3^{2}=1\pmod{4}\) ですので、巡回群だと分かります。

(例) \(m=8\)とすると\(\varphi(8)=8-4=4\)ですので\((\mathbb{Z}/8\mathbb{Z})^{\times}\)は位数4の群となります。\((\mathbb{Z}/8\mathbb{Z})^{\times}\)は、\(8\)と互いに素な\(\bmod{8}\)の自然数ですので \[(\mathbb{Z}/8\mathbb{Z})^{\times}=\{ 1,3,5,7 \pmod{8}\}\] です。そして、 \[3^{2}=1,\ \ 5^{2}=1,\ \ 7^{2}=1 \pmod{8}\] ですので、巡回群ではありません。(群構造のみを考えると、位数2の巡回群の直積\(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\)と群同型となります。)  つまり、\(p=2\)のときは、上の定理が成り立たないことが分かります。また、\(n>3\)のとき、\((\mathbb{Z}/2^{n}\mathbb{Z})^{\times}\)は巡回群でないことが知られています。

(例) \(m=10\)とすると\(\varphi(10)=\varphi(2)\varphi(5)=4\)ですので\((\mathbb{Z}/10\mathbb{Z})^{\times}\)は位数4の群となります。\((\mathbb{Z}/10\mathbb{Z})^{\times}\)は、\(10\)と互いに素な\(\bmod{10}\)の自然数ですので \[(\mathbb{Z}/10\mathbb{Z})^{\times}=\{ 1,3,7,9 \pmod{10}\}\] です。そして、 \[3^{2}=9,\ \ 3^{3}=7,\ \ 3^{4}=1 \pmod{10}\] ですので、\(3\pmod{10}\)を生成元とする巡回群であることが分かります。  このように、\(m=p^{n}\)の形ではない自然数\(m\)に対しても、巡回群になる場合があります。

 \((\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})^{\times}\)が巡回群となるのは次の場合に限られることが知られています。

 \(m=2,4,p^{n}, 2p^{n}(p\)は奇素数)のとき、\((\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})^{\times}\)は巡回群となる。

 逆に、\(m\)を\(2\)以上の自然数とすると、\((\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})^{\times}\)が巡回群になるは、\(m=2,4,p^{n}, 2p^{n}(p\)は奇素数)の場合に限られる。

 \(m=2p^{n}\)のときに\((\mathbb{Z}/2p^{n}\mathbb{Z})^{\times}\)が巡回群となることは次のように分かります。\(2\)と互な素な\(\bmod{2}\)の自然数は\(1\)しかないため \[(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^{\times}\cong \{1\} \] となります。 すると、中国剰余定理より、 \[ (\mathbb{Z}/2p^{n}\mathbb{Z})^{\times}\cong (\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})^{\times}\times(\mathbb{Z}/p^{n}\mathbb{Z})^{\times} \cong(\mathbb{Z}/p^{n}\mathbb{Z})^{\times} \] ですので\(p^{n}\)の場合に帰着できます。

 また、逆に巡回群になるのが\(m=2,4,p^{n}, 2p^{n}\)の場合に限られることも、中国剰余定理と若干の考察から分かりますが、ここでは省略します。

 

 今回は、原始根の存在定理がどこまで一般化されるのか考察しました。\((\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})^{\times}\)が巡回群になる必要十分条件までは押さえておく必要はありませんが、\((\mathbb{Z}/p^{n}\mathbb{Z})^{\times}\)が巡回群となることは、よく使います。