美的数学のすすめ

初等整数論のうち、平方剰余の相互法則の意味を当面の目標としたいと思います。ゆくゆくは、ガウス和、円分体論まで到達したいです。

ガロア対応超入門

 ガロア理論の初歩は前々回ご説明しましたが、前々回は最も肝心なガロア理論の神髄ともいえるガロア対応については説明していませんでした。今回は、ガロア理論で最も重要なガロア対応を考察したうえで、次回それを円分体に応用します。

biteki-math.hatenablog.com

 ガロア対応とは、体の部分体(中間体といいます。)とガロア群の部分群の間に1対1の対応があるという、俄かには信じがたい美しい理論です。

 これを円分体に応用すると、円分体のガウス周期が満たす方程式やガウス周期どおしの関係(方程式)が存在することが一目瞭然でわかります。以前、n=5,7,13の場合のガウス周期を計算しましたが、その際使ったのは、「解と係数の関係」でした。「解と係数の関係」を用いればある程度は手計算で可能ですが、それでもn=17くらいまでが限界だと思います。しかし、ガウス対応を用いれば、少なくともその方程式が存在し、何次方程式になるのかは、ガロア群の部分を考えることにより、分かってしまいます。(ただし、方程式の具体的な形については、ガロア群からは分からないことが多いです。)
n=7の場合のガウス周期 - 美的数学のすすめ

n=13の場合のガウス周期 - 美的数学のすすめ

ガロア対応

①ガロア群の部分群から中間体への対応

   \(L/K\)をガロア拡大とし、\(G=\mathrm{Gal}(L/K)\)をそのガロア群とすると、ガロア群\(G\)の部分群と\(L\)の部分体との間に、次のような1対1の対応があるというのがガロア対応と呼ばれるものであり、ガロアの基本定理の中心部分になります。

 ガロア拡大(Galois extension)の定義はしませんでしたが、ある多項式の分解体(つまり、その多項式のすべての解を添加した体)と理解してほとんど問題ありません。
 厳密には、更に分離的という条件が必要ですが、通常でてくる体(標数0の体、有限体)はこの条件は自動的に満たされるため不要です。

  ガロア群\(G\)の部分群\(H\)に対して\(L\)の元で\(H\)の各元により不変なものを\(L^{H}\)と記載します。(\(L^{H}\)を不変体または固定中間体などといいます。

 つまり

\[ L^{H}=\{\ x\in L\ | \ \text{全ての}\sigma\in G\ \text{に対して}\ \sigma(x)=x \}\]

すると、\(L^{H}\)は体となり\(L\supset L^{H}\supset K\)となります。このようにガロア群を考えている体である\(L\)と基礎体\(K\)にはさまれた体を中間体といいます。

例:\(G=\mathrm{Gal}(L/K)\)自身を部分群と考えると、\(L^{G}=K\)となる。

例:\(\{ e\}\)を\(G=\mathrm{Gal}(L/K)\)の部分群と考えると、\(L^{\{ e\}}=L\)となる。

例:\(G=\mathrm{Gal}(L/K)\)の2つの部分群\(H_{1},H_{2}\)に、\(G\supset H_{1}\supset H_{2}\)のような包含関係がある場合には、対応する中間体は逆の包含関係が成り立つ。

 これらの対応を図示すると下記のようになります。 \[G\supset H_{1}\supset H_{2}\supset \{e\}\]

\[K\subset L^{H_{1}}\subset L^{H_{2}}\subset L\]

 上のガロア群の部分群が、下の中間体に対応しています。 一番端の、\(G=\mathrm{Gal}(L/K)\)や\(\{ e\}\)にもガロア対応がありますので、下記の4つの部分群がきれいに下の体と対応していることが分かります。(この図は縦に書きたいところですが、ブログの制約上横にしています。)

②中間体からガロア群の部分群への対応

 ①はガロア群の部分群から中間体への対応でした。次に逆の対応を考えます。

 \(L/K\)の中間体\(F\)をとると、\(G=\mathrm{Gal}(L/K)\)の元(つまり、\(L/K\)の自己同型)で\(F\)の各元を固定するものを\(G^{F}\)と記載します。(\(G^{F}\)を固定部分群といいます。)

 つまり

\[ G^{F}=\{\ \sigma\in G\ | \ \text{任意の}\ x\in F\text{に対して}\ \sigma(x)=x\ \}\]

すると、\(G^{F}\)は\(G\)の部分群となることが分かります。

例:\(L\)自身を\(L/K\)の中間体と考えると、\(G^{L}=\{e\}\)となります。

例:\(K\)自身を\(L/K\)の中間体と考えると、\(G^{K}=G\)となります。

 これらの例からわかるとおり、①ガロア群の部分群から中間体への対応と ②中間体からガロア群の部分群への対応は、互いに逆対応の関係となっています。

例:\(G=\mathrm{Gal}(L/K)\)の部分群\(H\)に対し①の対応によりその不変体\(L^{H}\)を作り、さらに②の対応から部分群\(G^{L^{H}}\)を対応させると元の部分群に戻ります。 つまり、\[ G^{L^{H}}=H \]

例:\(L/K\)の中間体\(F\)から始めて②の対応によりその固定部分群\(G^{F}\)を作り、さらに①の対応から中間体\(L^{G^{F}}\)を対応すると元の中間体に戻ります。 つまり、 \[ L^{G^{F}}=F\]

 つまり、下記の図の対応は上から下が①の対応ですが、下から上の②の対応とは完全に1対1の対応となります。

\[G\supset H_{1}\supset H_{2}\supset \{e\}\]

\[K\subset L^{H_{1}}\subset L^{H_{2}}\subset L\]

 これらの対応には次の著しい特徴があります。

ガロア対応の性質

 ガロア対応の性質で重要なものをまとめておきます。

(ガロア群の位数と拡大体の次数の一致)
  \(L/K\)をガロア拡大とし、\(G=\text{Gal}(L/K)\)をガロア群とすると、ガロア群\(G\)の位数と\(L/K\)の拡大次数は一致する。すなわち、\(L/K\)の拡大次数を\([L:K]\)と記すと \[ |G|=[L:K]\]


(部分群の指数と拡大体の次数の一致)
 \(H\)を\(G\)の部分群とし、その普遍体を\(L^{H}\)とすると\(L^{H}/K\)の拡大次数と\(|G/H|=|G|/|H|\)(この数を部分群\(H\)の指数(index)といいます。)が一致する。つまり、 \[|G|/|H|=[L^{H}:K]\]


(部分群の位数と拡大体の次数の一致)
  (上の2つの性質からも導くことができますが、)体の拡大\(L/L^{H}\)の拡大次数と\(|H|\)が一致する。つまり、 \[ |H|=[L:L^{H}]\]

上記の3つの性質は、下記の図で対応する部分の位数・実数が一致していることを示しています。(矢印は単なる包含関係を示しています。)

\[G\xleftarrow{|G|/|H|} H\xleftarrow{\ \ |H|\ \ } \{e\}\]

\[K\xrightarrow{[L^{H}:K]} L^{H}\xrightarrow{[L:L^{H}]} L\]

 さらに、ガロア対応には次の性質があります。

\(L/K\)をガロア拡大とし、\(F\)をその中間体、\(H\)をその対応するガロア群の部分群とすると

\[ H\text{がGal}(L/K)\text{の正規部分群}\ \Longleftrightarrow F/K\text{は正規拡大}\]

\[G\xleftarrow{正規部分群} H\xleftarrow{\ \ \ \ \ } \{e\}\]

\[K\xrightarrow{正規拡大} F \xrightarrow{\ \ \ \ \ } L\] このとき、\( \mathrm{Gal}(F/K)=G/H \)

 正規拡大(normal extension)の定義をしていませんが、前々回の分解体と同様の意味と考えて問題ありません。したがって、ほとんどの場合(標数0の場合や有限体では)ガロア拡大と一致します。

 上の性質は、部分群が正規部分群であることと、体の拡大がガロア拡大であることが対応し、その剰余群がガロア群になることを示しています。

 次回、このガロア対応を円分体に応用します。