平方剰余の相互法則(その3)
今回は、平方剰余の相互法則と円分体論の関係を説明します。ポイントとなるのは、もう一つのガロア対応―高木・アルチン対応―とガウス和です。
平方剰余の相互法則
平方剰余の相互法則とは次の法則でした。
(平方剰余の相互法則)
\(p,q\)を異なる2つの奇素数とするとき次が成立する。 \[\left(\frac{q}{p}\right)\left(\frac{p}{q}\right)=(-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}}\]
今回は平方剰余の相互法則を円分体論の中で理解していきます。その際、円分体と平方剰余とを結びつけるものがガウス和となります。
ガウス和
\(p\)を素数とするとし、\(\zeta_{p}=\exp (\frac{2\pi i}{p})\)とします。このとき、ガウス和\(G\)は次のように定義されます。
\[ G= \sum_{r\in {\text 平方剰余}}\zeta^{r} - \sum_{r\in {\text 平方非剰余}}\zeta^{r} \]
ここで「平方剰余」「平方非剰余」は、\(\bmod{p}\)で考えます。
ガウス和の具体例については、下記をご覧ください。\(p\)が小さいときは、解と係数の関係を使うことにより具体的に求めることができます。
ガウス和は、その名の通りガウスにより次のように値が決定されています。
(ガウス和)
\[G=\sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}\]
ガウス和の意味
ガウス和は、その定義から\(\zeta_{p}\)のべき乗の和(差)となっています。したがって、ガウス和は、代数体\(\mathbb{Q}(\zeta_{p})\)の元です。よって
\[ \sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}\in \mathbb{Q}(\zeta_{p})\]
です。このことから、有理数体\(\mathbb{Q}\)に\(\sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}\)を添加した\(\mathbb{Q}\left(\sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}\right)\)は、円分体\( \mathbb{Q}(\zeta_{p})\)に含まれることが分かります。
\[ \mathbb{Q}\left(\sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}\right)\subset\mathbb{Q}(\zeta_{p})\]
ガロア群
何度か出てきましたが、円分体のガロア群は、\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)と自然な同型があります。
\[ \text{Gal}\left(\mathbb{Q}(\zeta_{p}\right)/\mathbb{Q})\cong (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\]
ここで、中間体\(\mathbb{Q}\left(\sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}\right) \)に対応する部分群を\(H\)とすると、ガロア対応は下記の図のように表せます。
\[\begin{matrix} \mathbb{Q} & \subset & \mathbb{Q}\left(\sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}\right) & \subset & \mathbb{Q}(\zeta_{p}) \\ (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times} & \supset & H & \supset & \{1\} \end{matrix} \]
ここで、\( \mathbb{Q}\left(\sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}\right) \)の拡大次数は2ですので、部分群\(H\)の指数は2です。\((\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)は位数\(p-1\)の巡回群ですので、指数2の部分群はただ1つ存在し、それは、平方剰余の元からなる部分群です。したがって、中間体\(\mathbb{Q}\left(\sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}\right) \)に対応する部分群\(H\)は、平方剰余の元からなら部分群です。
\[H=\{r\in (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\ \ | \ \ r:\text{平方剰余}\ \}\]
もう一つのガロア対応
円分体のガロア対応には、ガロア対応の他にもう一つの不思議な対応がありました。もう一つのガロア対応、あるいは、高木‐アルチン対応とでもいうべきものです。
これを中間体\(\mathbb{Q}\left(\sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}\right)\)に適用すると次の同値関係が得られます。
\[\begin{equation} x^{2}-(-1)^{\frac{p-1}{2}}p \ \ {\textが}\bmod{q}{\text で完全分解する}\Longleftrightarrow q\in H\tag{1} \end{equation}\]
この同値関係の右側は、\(\bmod{q}\)で考えていますので、この段階で既にmodの交換が起こっていることが分かります。
「完全分解する」とは1次式に分解できることを意味していますので、同値関係(1)の左側は、合同式 \[x^{2}-(-1)^{\frac{p-1}{2}}p \equiv 0\pmod{q}\] が解を持つことを意味します。これは平方剰余(ルジャンドル記号)の定義より \[\left(\frac{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}{q}\right)=1\] と同値です。そして、この式 の左辺は、ルジャンドル指標の指標性と第1補充法則を用いることにより
\[\begin{align} \left(\frac{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}{q}\right)&=\left(\frac{(-1)^{\frac{p-1}{2}}}{q}\right)\left(\frac{p}{q}\right)\\ &=\left(\frac{-1}{q}\right)^{\frac{p-1}{2}}\left(\frac{p}{q}\right)\\ &=(-1)^{\frac{p-1}{2}{\frac{q-1}{2}}}\left(\frac{p}{q}\right) \end{align}\] と変形できます。したがって、上の同値関係(1)の左側は \[(-1)^{\frac{p-1}{2}{\frac{q-1}{2}}}\left(\frac{p}{q}\right)=1\] と同値であることが分かります。
一方、上の同値関係(1)の右側は、\(H\)が\(\bmod{p}\)で平方剰余な元からなる集合であることから、\(q\)が\(\bmod{p}\)で平方剰余であることと同値です。つまり、 \[\left(\frac{q}{p}\right)=1\] と同値です。
以上より、上の同値関係(1)より
\[(-1)^{\frac{p-1}{2}{\frac{q-1}{2}}}\left(\frac{p}{q}\right)=1\Longleftrightarrow \left(\frac{q}{p}\right)=1\]
が成立することが分かります。この同値関係を変形することにより、平方剰余の相互法則 \[\left(\frac{q}{p}\right)\left(\frac{p}{q}\right)=(-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}}\] が導けます。(ルジャンドル記号は\(\pm1\)しか値をとらないことに注意しましょう。)
まとめ
平方剰余の相互法則は同値関係(1)がポイントであることが分かりました。そして、同値関係(1)は「円分体におけるもう一つのガロア対応―高木・アルチン対応」から求められました。そして、これを適用する前提として、\( \mathbb{Q}\left(\sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}\right)\subset\mathbb{Q}(\zeta_{p})\)が必要でしたが、これは、ガウス和から求めらたものでした。
つまり、平方剰余の相互法則は、ガウス和と円分体論から求めることができることが分かりました。