第2補充法則
前回は、平方剰余に関するオイラーの規準と第1補充法則について解説しました。 今回は第2補充法則です。第2補充法則を円分体論の中で理解します。このように考えると、実は、第1補充法則も円分体論の中で理解できることが分かります。
第2補充法則
\(p\)を2以外の奇素数とするとき\(\left(\frac{2}{p}\right)\)を決定するのが第2補充法則です。 なぜ、“2”なのか、“3”や“5”はどうなるのか疑問に思うかもしれません。
\(\left(\frac{2}{p}\right)\)を特別扱いとするのは、平方剰余の相互法則が使えないからです。逆に\(\left(\frac{3}{p}\right)\)や\(\left(\frac{5}{p}\right)\)は、平方剰余の相互法則により決定することができます。
第2補充法則は、次のように表されます。
(第2補充法則)
\(p\)を奇素数とするとき \[\left(\frac{2}{p}\right)=(-1)^{\frac{p^{2}-1}{8}}\]
第2補充法則の意味
第2補充法則の右辺は、\(p\)を8で割った余りである\(p\pmod{8}\)のみに依存することが分かります。
実際\(p\equiv \pm 1\pmod{8}\)のとき\(+1\)、\(p\equiv \pm 3\pmod{8}\)のとき\(-1\)です。
\[\left(\frac{2}{p}\right)= \begin{cases} 1 & p\equiv \pm 1\pmod{8} \\ -1 & p\equiv \pm 3\pmod{8} \end{cases} \]
例えば、\(p=7\)のとき\(x^{2}\equiv 2\pmod{7}\)は解がありますが \[ 3^{2}\equiv 2\pmod{7}\] \(p=5\)のとき\(x^{2}\equiv 2\pmod{5}\)は解がありません。
この他 \[ 6^{2}\equiv 2\pmod{17}\] \[ 5^{2}\equiv 2\pmod{23}\] \[ 8^{2}\equiv 2\pmod{31}\] と、\(p=17,23,31,\cdots\)のとき解があることが分かります。
逆に、\(p=5,11,13,19,\cdots\)のとき解がないことも分かります。
円分体(1の8乗根)
突然ですがここで、1の原始8乗根\(\zeta_{8}\)を考えます。\(\zeta_{8}\)はガウス平面上の単位円の\(\theta =45^{\circ} \)に位置していますので \[\zeta_{8}=\frac{\sqrt{2}+\sqrt{-2}}{2}\]
です。
また、同じく1の原始8乗根の1つである\(\zeta_{8}^{7}\)を考えます。\(\zeta_{8}^{7}\)はガウス平面上の単位円の\(\theta =-45^{\circ} \)に位置していますので \[\zeta_{8}^{7}=\frac{\sqrt{2}-\sqrt{-2}}{2}\]
となります。したがって \[\zeta_{8}+\zeta_{8}^{7}=\sqrt{2}\] です。
このことから、円分体\(\mathbb{Q}(\zeta_{8})\)の中に、2次体\(\mathbb{Q}(\zeta_{8}+\zeta_{8}^{7})=\mathbb{Q}(\sqrt{2})\)が含まれることが分かります。つまり、 \[\mathbb{Q} \subset \mathbb{Q}(\sqrt{2}) \subset \mathbb{Q}(\zeta_{8}) \] です。
ここまできたらもうお分かりだと思いますが、1の8乗根を考えたのは、\(\mathbb{Q}(\sqrt{2})\)を含む円分体を選んだのです。そして、なぜ\(\mathbb{Q}(\sqrt{2})\)を考えたのか、それは第2補充法則は\(x^{2}=2\)を\(\bmod{p}\)したときに解があるかないかが問題となるからです。
\(\mathbb{Q}(\sqrt{2})\)は、\(\mathbb{Q}\)のアーベル拡大ですのでクロネッカー=ウェーバーの定理 (Kronecker-Weber's theorem)により必ず、円分体に含まれることが分かります。
また、ガウス和を考えることにより、奇素数\(p\)に対して \[\mathbb{Q} \subset \mathbb{Q}(\sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}) \subset \mathbb{Q}(\zeta_{p}) \] が成立しますが、これを一般化したものと考えることもできます。
円分体のガロア群
かつて見たように円分体のガロア群は、既約剰余群と同型になります。
\[\text{Gal} (\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q})\cong(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}\]
ここで\(n=8\)とすると
\[\begin{align} \text{Gal} (\mathbb{Q}(\zeta_{8})/\mathbb{Q}) &\cong(\mathbb{Z}/8\mathbb{Z})^{\times}\\ & \cong \{1,3,5,7\} \end{align}\]
です。この同型は、右辺の\(i\in(\mathbb{Z}/8\mathbb{Z})^{\times}\)に対し、ガロア群の元\(\sigma_{i}:\zeta_{8}\mapsto \zeta_{8}^{i}\)が対応します。
\(\mathbb{Q}(\sqrt{2})\)に対応する部分群
さてここで、中間体\(\mathbb{Q}(\zeta_{8}+\zeta_{8}^{7})=\mathbb{Q}(\sqrt{2})\)に対応する部分群、つまり、中間体\(\mathbb{Q}(\zeta_{8}+\zeta_{8}^{7})=\mathbb{Q}(\sqrt{2})\)の元を不変にするガロア群の元を特定します。
ガロア群の元\(\sigma_{i}\in \text{Gal} (\mathbb{Q}(\zeta_{8})/\mathbb{Q}) \)は、1の原始8乗根\(\zeta_{8}\)を\(i\)乗します。つまり、\(\sigma_{i}(\zeta_{8})=\zeta_{8}^{i}\)です。
したがって
\[\sigma_{i}(\zeta_{8}+\zeta_{8}^{7})=\zeta_{8}^{i}+\zeta_{8}^{7i}\]
です。これが、\(\zeta_{8}+\zeta_{8}^{7}\)に一致するのは、\(i=1,7\)に限ります。
円分多項式\(x^{4}+1\)は既約であることから、4つの原始8乗根、\(\zeta_{8},\zeta_{8}^{3},\zeta_{8}^{5},\zeta_{8}^{7}\)は\(\mathbb{Q}\)上一次独立であることが分かります。このことから上のことが分かります。
これにより、中間体\(\mathbb{Q}(\sqrt{2})\)に対応するガロア群の分部群は\(\{1,7\}\)であることが分かりました。
このガロア対応を図示すると次のようになります。(通常は、この図は縦にかきますが、ここでは横にしています。)
\[\begin{matrix} \mathbb{Q} & \subset & \mathbb{Q}(\sqrt{2}) & \subset & \mathbb{Q}(\zeta_{8}) \\ (\mathbb{Z}/8\mathbb{Z})^{\times} & \supset & \{1,7\pmod{8}\} & \supset & \{1\} \end{matrix} \]
もう一つのガロア対応
さてここまでは一般のガロア理論です。さて、円分体のガロア対応には、一般のガロア対応を超えた対応がありました。
まさに今回もこの「もう一つのガロア対応」が成立していますね。
なぜなら、第2補充法則は
\[x^{2}-2 \pmod{p}\text{が完全分解する}\Longleftrightarrow p\pmod{8}\text{が、ガロア群} \{1,7\}\text{に含まれる}\]
と解釈することができます。つまり、第2補充法則は、「もう一つのガロア対応」の一つと考えることができます。
第1補充法則の解釈
実は、前回解説した第1補充法則も、「もう一つのガロア対応」の一つと考えることができます。
なぜなら、\(\sqrt{-1}\)は原始4乗根の1つと考えることができます。これにより、\(\mathbb{Q}(\sqrt{-1})\)のガロア群は\( (\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})^{\times}\)と自然な同型があります。
\[ \text{Gal}(\mathbb{Q}(\sqrt{-1})/\mathbb{Q})\cong(\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})^{\times}\] これをガロア対応の形でかくと
\[\begin{matrix} \mathbb{Q} & \subset & \mathbb{Q}(\sqrt{-1}) \\ (\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})^{\times} & \supset & \{1\} \end{matrix} \] です。
\[x^{2}+1 \pmod{p}\text{が完全分解する}\Longleftrightarrow p\pmod{4}\text{が、ガロア群} \{1\}\text{に含まれる}\] これは、第1補充法則そのものです。
もう一つのガロア対応とは
このように考えると、「もう一つのガロア対応」を考える際は、円分体のガロア群と既約剰余類群との自然な対応
\[ \text{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q})\cong (\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}\] を考えることが決定的に重要であることが分かります。
なぜなら、第2補充法則の説明の際にみた \(\text{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_{8})/\mathbb{Q})\)は、位数4のアーベル群であり、\(\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\)と群として同型です。しかしこのような群同型を考えても「もう一つのガロア対応」は成り立ちません。\( (\mathbb{Z}/8 \mathbb{Z})^{\times}\)との自然な同型を考えることが必要となります。
また、第1補充法則の説明で登場した \(\text{Gal}(\mathbb{Q}(\sqrt{-1})/\mathbb{Q})\)は、位数2の群ですので、\( \mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\)と群として同型です。しかし、このような同型を考えても「もう一つのガロア対応」は成り立ちません。
つまり、この対応を考える際には、ガロア群と既約剰余類群との間の自然な同型が決定的に重要なことが分かります。
一般的な代数体でも、同様のことが成り立ちますが、それが、類体論そのものです。その際に自然な同型写像が、アルチン写像です。ここまで、「もう一つのガロア対応」という名前で呼んできましたが、この対応は、ガロア対応とは何の関係もありません。むしろ、その発見者の名前にちなみ、高木‐アルチン対応などと呼ぶのが適切です。類体論とは、この高木‐アルチンの対応そのものということもできます。