n=7の場合のガウス周期
前回ガウス和の具体例を\(n=5,7,11,13\)の場合について計算してみました。
前回計算したガウス和は、最もポピュラーなものではありますが、厳密には2次のガウス和と呼ばれているものです。これから2次以外のガウス和について考えてみます。今回は、その前提としてガウス周期(Gaussian Period)について考えます。ガウス周期を組み合わせることによって、ガウス和ができます。また、ガウス周期を用いて1のn乗根を解くこともできます。ガウスは、18歳のある朝、目覚めた刹那に正17角形が作図可能であることに気がつきましたが、このときに用いられたのがガウス周期です。
\(n=7\)の場合の円分多項式
\(n=7\)の円分多項式を考えます。\(\Phi(x)=x^{6}+ x^{5}+ x^{4}+ x^{3}+ x^{2}+ x^{1}+1\)、\(\zeta=\exp(\frac{2\pi i}{7})\)とおくと、\(\zeta\)は\(\Phi(x)=0\)の解となります。 そして、
\[\begin{align} \alpha&=\zeta+\zeta^{6} \\ \beta&=\zeta^{2}+\zeta^{5} \\ \gamma&=\zeta^{3}+\zeta^{4} \end{align} \] とおくと、 \[ \alpha+\beta+\gamma=\zeta+\zeta^{2}+\zeta^{3}+\zeta^{4}+\zeta^{5}+\zeta^{6}=-1\]
です。(なお、以下は7次の円分多項式の既約性 - 美的数学のすすめで行った計算と同じですので、適宜、読み飛ばしてください。)
また、\(\zeta^{7}=1\)ですので、 \[ \begin{align} \alpha\beta &= (\zeta+\zeta^{6} )(\zeta^{2}+\zeta^{5})\\ &=\zeta^{3}+\zeta^{6}+\zeta+\zeta^{4} \\ &=\alpha+\gamma \end{align} \] です。同様に、 \[ \begin{align} \beta\gamma &= (\zeta^{2}+\zeta^{5})(\zeta^{3}+\zeta^{4})\\ &=\zeta^{5}+\zeta^{6}+\zeta+\zeta^{2} \\ &=\beta+\alpha \end{align} \] \[ \begin{align} \gamma\alpha &= (\zeta^{3}+\zeta^{4})(\zeta+\zeta^{6})\\ &=\zeta^{4}+\zeta^{2}+\zeta^{5}+\zeta^{3} \\ &=\gamma+\beta \end{align} \] です。したがって、 \[ \alpha\beta+\beta\gamma+\gamma\alpha=2(\alpha+\beta +\gamma)=-2\]
と分かります。
最後に、 \[\begin{align} \alpha\beta\gamma &=(\alpha+\gamma)\gamma\\ &=\alpha\gamma+\gamma^{2} \\ &=\gamma+\beta+(\zeta^{3}+\zeta^{4})^{2} \\ &=\gamma+\beta+\zeta^{6}+2+\zeta \\ &=\alpha+\beta+\gamma+2\\ &=-1+2=1 \\ \end{align}\]
以上より、\(\alpha,\beta,\gamma\)は、方程式 \[ x^{3}+x^{2}-2x-1=0 \tag{1}\] の解であることが分かります。
方程式(1)をカルダノの公式を用いて解くことにより、\(\alpha,\beta,\gamma\)が求めることができます。その上で、\(\alpha=\zeta+\zeta^{6}=\zeta+\zeta^{-1}\)を\(\zeta\)の2次式と考えて解くことにより、1の7乗根を求めることができます。
この方程式(1)の判別式は、\(49=7^{2}\)です。
方程式(1)の判別式は\(7^{2}\)であり、\(n=7\)の二乗となっています。これは、そもそも円分多項式\(\Phi(x)\)の判別式が\(-16807=-7^{5}\)であることから、その解から生成される\(\alpha,\beta,\gamma\)もその性質を引き継いでいることによります。(円分多項式の判別式はSageで求めてみました。便利な世の中です。)
整数論において、方程式の判別式が重要となるのは、方程式の判別式の値(正確にはその判別式を素因数分解したときに現れる素数\(p\))で、方程式を\(\bmod{p}\)したときにその方程式が重根をもつという性質のためです。
実際、\( (x-1)^{7}\equiv x^{7}-1 \pmod{7}\)であることから、両辺を\( x-1\)で割ると、\( (x-1)^{6}\equiv x^{6}+ x^{5}+ x^{4}+ x^{3}+ x^{2}+ x^{1}+1=\Phi(x)\pmod{7}\)となり、\(\Phi(x)\)は、\(\bmod{7}\)で6重根を持つことが分かります。逆に、7以外の素数\(p\)においては、\(\Phi(x)\)は\(\bmod{p}\)で重根をもたないことが分かります。
同様に方程式(1)は、\(\bmod{7}\)で重根を持ちます。実際、\((x-2)^{3}=x^{3}-6x^{2}+12x-8\equiv x^{3}+x^{2}-2x-1\pmod{7}\)で方程式(1)となりますので、方程式(1)は3重根を持つことが分かります。
なぜ、整数論において\(\bmod{p}\)で重根をもつ素数\(p\)が重要となるのかについては、別稿で説明したいと思います。
\(\alpha,\beta,\gamma\)のとり方
さて、 \[\begin{align} \alpha&=\zeta+\zeta^{6} \\ \beta&=\zeta^{2}+\zeta^{5} \\ \gamma&=\zeta^{3}+\zeta^{4} \end{align} \] とおくと、なぜうまくいったのでしょうか。もちろん、\(\zeta\)と\(\zeta^{6}\)が複素共役であり\(\zeta^{2}\)と\(\zeta^{5}\)や、\(\zeta^{3}\)と\(\zeta^{4}\)が複素共役であるというのは一つの立派な回答です。しかし、ここでは別の側面に注目してみます。
(二次)ガウス和の場合に平方剰余と平方非剰余で分類することにより、うまくいきました。それでは、これと同じような分類を行うことにより、\(\{1,6\},\{2,5\},\{3,4\}\)と分けることはできるでしょうか?
そこで、\( (\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\)を原始根3のべき乗で表してみます。 \[3^{1}=3,\ 3^{2}=2,\ 3^{3}=6,\ 3^{4}=4,\ 3^{5}=5,\ 3^{6}=1\] すると、\(\alpha=\zeta+\zeta^{6}\)の肩に乗っている数字\(1,6\)は、\(1=3^{6},6=3^{3}\)であり、原始根の「3の倍数」乗(いってみれば立方剰余)となっています。
そして、\(\beta=\zeta^{2}+\zeta^{5} \)の肩に乗っている数字は、\(2=3^{2},5=3^{5}\)であり、原始根の「3の倍数+2」乗になっています。また、\(\gamma=\zeta^{3}+\zeta^{4}\)の肩に乗っている数字は、\(3=3^{1},4=3^{4}\)であり、原始根の「3の倍数+1」乗になっています。
つまり、\(\alpha,\beta,\gamma\)は、原始根を「3の倍数」乗、「3の倍数+1」乗、「3の倍数+2」乗したもので分類されていることが分かります。ここでは、この分類を立法剰余による分類と呼びます。(必ずしも一般的な呼び方ではありません。)
\( (\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\)の原始根は当然一意的ではなく、全部で\(\varphi(6)=\varphi(2)\varphi(3)=2\)個あります。そして、もう一つの原始根は5です。\( (\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\)を5のべき乗で表すと \[ 5^{1},\ 5^{2}=4,\ 5^{3}=6,\ 5^{4}=2,\ 5^{5}=3,\ 5^{6}=1\] となります。すると、5の「3の倍数」乗は\(6,1\)となり上の\(\alpha\)と一致しますが、5の「3の倍数+1」乗は\(5,2\)、5の「3の倍数+2」乗は\(4,3\)となり、上の\(\beta,\gamma\)とは反対になっています。 このように、「3の倍数+1」乗なのか「3の倍数+2」乗なのかは原始根の取り方に依存します。ただし、原始根の3の倍数乗(つまり立方剰余)は原始根の取り方には依存しません(これは、7-1=6が3で割り切れるためです。)。また、「3の倍数+1」乗なのか「3の倍数+2」乗なのかはともかく、分類そのものは原始根の取り方によらずに決まります。
\(\alpha,\beta,\gamma\)は立法剰余で分類することにより定まる。
立法剰余で分類できる条件
さて、\(n=7\)のときはこのように立法剰余で分類できましたが、これはいつでもできるのでしょうか。例えば、\(n=5\)のときは、\( (\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^{\times}\)の位数は4ですので、3の倍数で分類できません。このように、\(n-1\)が3で割れることが立法剰余の分類ができる条件となります。(\(n\)は素数と仮定しています。7の次にこれを満たす素数は13(12は3の倍数)ですので、次回、\(n=13\)の場合に、立法剰余での分類が可能であることを確かめてみます。)
ガウス周期
ここまでのことから、\(n=7\)とすると、7-1=6の約数で分類ができることがわかります。(2つに分類する場合が平方剰余・平方非剰余の分類です。3つに分類するのは、上の立法剰余による分類です。)
そして、このように立法剰余による分類をした場合の \[\begin{align} \alpha&=\zeta+\zeta^{6} \\ \beta&=\zeta^{2}+\zeta^{5} \\ \gamma&=\zeta^{3}+\zeta^{4} \end{align} \] のそれぞれのことをガウスの2周期と呼びます。(つまり、\(\alpha\)も\(\beta\)も\(\gamma\)もそれぞれが2周期であり、異なる2周期が3つあります。)
これに対して、前回分類を行った平方剰余・平方非剰余で分類をすると、\( (\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\)の平方剰余は1,2,4、平方非剰余は3,5,6ですので、 \[\begin{align} \alpha&=\zeta+\zeta^{2}+\zeta^{4} \\ \beta&=\zeta^{3}+\zeta^{5}+\zeta^{6} \end{align} \] となります。このときの\(\alpha,\beta\)はそれぞれガウスの3周期といいます。(\(\alpha\)と\(\beta\)はそれぞれが3周期であり、異なる2つの3周期があります。)
つまり、ガウスの周期とは\(n\)の約数\(d\)に対して、\( (\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}\)を\(d\)個に分類し、それぞれ分類された仲間同士を足し合わせたものが、\(n/d\)周期になります。
自明なものになりますが、\( (\mathbb{Z}/7\mathbb{Z})^{\times}\)の1周期や6周期も考えられ、6周期とは
\[ \alpha=\zeta+\zeta^{2}+\zeta^{3}+\cdots+\zeta^{6}\]を意味し、これは当然\(-1\)となります。
また、\(\zeta,\zeta^{2},\cdots,\zeta^{6}\)の1つ1つが1周期となります。(異なる1周期が6つあります。)
ガウス周期のまとめ
\(n=7\)の場合のガウス周期をまとめると次のようになります。
\(f\) | \(f\)周期 | \(f\)周期を解とする方程式 | 判別式 |
---|---|---|---|
1 | \(\zeta,\ \ \zeta^{2},\ \ \cdots\ \ ,\zeta^{6}\) | \(\Phi(x)\) | \(-7^{5}\) |
2 | \(\zeta+\zeta^{6},\ \zeta^{2}+\zeta^{5},\ \zeta^{3}+\zeta^{4}\) | \(x^{3}+x^{2}-2x-1\) | \(7^{2}\) |
3 | \(\zeta+\zeta^{2}+\zeta^{4},\ \ \zeta^{3}+\zeta^{5}+\zeta^{6}\) | \(x^{2}+x+2\) | \(-7\) |
6 | \(\zeta+\zeta^{2}+\zeta^{3}+\cdots+\zeta^{6}=-1\) | \(x+1\) | 1 |
判別式の定義より1次式の判別式は常に1になります。(或いは、そのように定義されているといった方が適切なのかもしれません・・・)
上の表より、判別式は、一定の法則に基づいていることが予想されます!