もう一つのガロア対応
前々回、円分多項式\(\Phi_{q}\)の\(\bmod{p}\)での分解法則は、\(p\)の\(\mod{q}\)における位数で決まることをみました。円分多項式の分解法則では考える mod の世界が入れ替わるのですね。
今回は、円分多項式と同じような分解法則が、円分体の部分体でも成り立つということを解説します。
加えて、円分体におけるガロア対応は、多項式の分解法則に対応しているということもお話します。
\(n=5\)の場合
\(\zeta_{5}=\exp{\frac{2\pi i}{5}}\)とおき、円分体\(\mathbb{Q}(\zeta_{5})\)を考えます。円分体\(\mathbb{Q}(\zeta_{5})\)は\(\mathbb{Q}\)上4次の巡回拡大であり、ただ一つの次数2の中間体があります。
円分体の中間体は、ガウス周期から生成されます。ガウス周期を
\[\begin{align} \alpha &=\zeta_{5}+\zeta_{5}^{4}\\ \beta &=\zeta_{5}^{2}+\zeta_{5}^{3} \end{align}\]
とおくと、解と係数の関係から\(\alpha,\beta\)が満たす方程式は
\[ x^{2}+x-1=0\]
であることが分かりました。そして、この方程式の判別式は\(D=1-(-4)=5\)となります。 biteki-math.hatenablog.com
上の方程式を\(\bmod{p}\)で因数分解してみます。例によってsageを使います。(sageの使い方は前回の記事を参考にしてください。)
その結果は、下記のとおりです。
素数 | \(\bmod{5}\) | \( x^{2}+x-1 \)の因数分解 |
---|---|---|
\( 3 \) | \( 3 \) | \( x^{2}+x-1 \) |
\( 5 \) | \( 0 \) | \( (x + 3)^{2} \) |
\( 7 \) | \( 2 \) | \( x^{2}+x-1 \) |
\( 11 \) | \( 1 \) | \( (x + 4) (x + 8) \) |
\( 13 \) | \( 3 \) | \( x^{2}+x-1 \) |
\( 17 \) | \( 2 \) | \( x^{2}+x-1 \) |
\( 19 \) | \( 4 \) | \( (x + 5) (x + 15) \) |
\( 23 \) | \( 3 \) | \( x^{2}+x-1 \) |
\( 29 \) | \( 4 \) | \( (x + 6) (x + 24) \) |
\( 31 \) | \( 1 \) | \( (x + 13) (x + 19) \) |
\( 37 \) | \( 2 \) | \( x^{2}+x-1 \) |
\( 41 \) | \( 1 \) | \( (x + 7) (x + 35) \) |
\( 43 \) | \( 3 \) | \( x^{2}+x-1 \) |
\( 47 \) | \( 2 \) | \( x^{2}+x-1 \) |
上のことから、次のことが分かります。
\(x^{2}+x-1\)の\(\bmod{p}\)での因数分解は次のとおり。
\(p=5\)のときのみ、重根をもつ。
\(p\equiv 1,4 \pmod{5}\)のとき、2つの1次式の分解する。つまり、完全分解する。
\(p\equiv 2,3 \pmod{5}\)のとき、既約である。
判別式が5であることと、重根を持つ素数が\(p=5\)のみであることとは関係があります。実際、\(\bmod{p}\)した際に重根をもつことと、判別式が\(p\)で割り切れることは同値です。
判別式の定義(多項式の判別式 - 美的数学のすすめ)から、判別式が0であることと、重根をもつ(ただし、この場合の重根とは複素数体で考えた場合)が同値であることが分かりますが、このことは、判別式を\(\bmod{p}\)した場合にも成り立っていると解釈することができます。
円分多項式\(\Phi_{5}=x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1\)の分解法則を再掲します。
円分多項式\(\Phi_{5}(x)\)の\(\bmod{p}\)における因数分解の法則は以下のとおり。
重根をもつのは\(\bmod{5}\)の場合のみ。このとき、\(\Phi_{5}(x)=(x-1)^{4}\pmod{5}\)と因数分解する。
\(p\equiv 1\pmod{5}\)のとき\(\Phi_{5}(x)\)は\(\bmod{p}\)で4つの異なる1次式に分解する。つまり、完全分解する。
\(p\equiv 4\pmod{5}\)のとき\(\Phi_{5}(x)\)は\(\bmod{p}\)で2つの異なる2次式に分解する。
\(p\equiv 2,3\pmod{5}\)のとき\(\Phi_{5}(x)\)は\(\bmod{p}\)で既約(因数分解できない)である。
これを\( x^{2}+x-1 \)の因数分解の場合と見比べると、\(p=5\)のとき重根をもつこと、\(p\equiv 2,3\pmod{5}\)のとき既約となることは同じですが、完全分解する\(p\)が異なることが分かります。
完全分解する素数を、体の拡大の図に合わせて並べて書いてみましょう。
\[\begin{matrix} \mathbb{Q} & \subset & \mathbb{Q}(\sqrt{5}) & \subset & \mathbb{Q}(\zeta_{5})\\ (\mathbb{Z}/5\mathbb{Z})^{\times} & \supset & \{1,4\} & \supset & \{1\} \end{matrix} \]
この図は、\(\mathbb{Q}(\zeta_{5})\)を定義する多項式は\(\Phi_{5}\)であり\(\Phi_{5}\)を完全分解する素数\(p\)は、\(p\equiv 1\pmod{5}\)であることを示しています。
また、中間体 \(\mathbb{Q}(\sqrt{5})\)を定義する多項式は\(x^{2}+x-1\)であり、\(x^{2}+x-1\)を完全分解する素数\(p\)は、\(p\equiv 1,4\pmod{5}\)であることを示しています。
ところで、この図はどこかで見ませんでしたか?
\(n=7\)の場合
\(\zeta_{7}=\exp{\frac{2\pi i}{7}}\)とおき、円分体\(\mathbb{Q}(\zeta_{7})\)を考えます。円分体\(\mathbb{Q}(\zeta_{7})\)は\(\mathbb{Q}\)上6次の巡回拡大であり、次数2と3の中間体が1つづつあります。
2次拡大
分体の中間体は、ガウス周期から生成されます。3周期を
\[\begin{align} \alpha &=\zeta_{7}+\zeta_{7}^{2}+\zeta_{7}^{4}\\ \beta &=\zeta_{7}^{3}+\zeta_{7}^{5}+\zeta_{7}^{6} \end{align}\]
とすると、解と係数の関係から\(\alpha,\beta\)が満たす方程式は \[x^{2}+x+2=0\] であることが分かります。そして、この方程式の判別式は\(D=1-4\cdot2=-7\)です。
上の場合と同様に、\(x^{2}+x+2=0\)の方程式の分解法則を探してみましょう。
素数 | \(\bmod{7}\) | \( x^{2}+x+2 \)の因数分解 |
---|---|---|
\( 3 \) | \( 3 \) | \( (x^{2} + x + 2) \) |
\( 5 \) | \( 5 \) | \( (x^{2} + x + 2) \) |
\( 7 \) | \( 0 \) | \( (x + 4)^{2} \) |
\( 11 \) | \( 4 \) | \( (x + 5) (x + 7) \) |
\( 13 \) | \( 6 \) | \( (x^{2} + x + 2) \) |
\( 17 \) | \( 3 \) | \( (x^{2} + x + 2) \) |
\( 19 \) | \( 5 \) | \( (x^{2} + x + 2) \) |
\( 23 \) | \( 2 \) | \( (x + 10) (x + 14) \) |
\( 29 \) | \( 1 \) | \( (x + 8) (x + 22) \) |
\( 31 \) | \( 3 \) | \( (x^{2} + x + 2) \) |
\( 37 \) | \( 2 \) | \( (x + 9) (x + 29) \) |
\( 41 \) | \( 6 \) | \( (x^{2} + x + 2) \) |
\( 43 \) | \( 1 \) | \( (x + 19) (x + 25) \) |
\( 47 \) | \( 5 \) | \( (x^{2} + x + 2) \) |
この表より次の分解法則がわかります。
\(x^{2}+x+2\)の\(\bmod{p}\)における因数分解の法則は以下のとおり。
重根をもつのは\(p=7\)の場合のみ
\(p\equiv 1,2,4\pmod{7}\)のとき異なる1次式に分解する。つまり、完全分解する。
\(p\equiv 3,5,6 \pmod{7}\)のとき、既約である。
3次拡大
2周期を
\[\begin{align} \alpha&=\zeta_{7}+\zeta_{7}^{6}\\ \beta&=\zeta_{7}^{2}+\zeta_{7}^{5}\\ \gamma&=\zeta_{7}^{3}+\zeta_{7}^{4} \end{align}\] とすると、解と係数の関係より\(\alpha,\beta,\gamma\)が満たす方程式は
\[ x^{3}+x^{2}-2x-1=0\]
だと分かりました。 n=7の場合のガウス周期 - 美的数学のすすめ
次に、\( x^{3}+x^{2}-2x-1=0\)の分解法則を見てみましょう。 その前に、\( x^{3}+x^{2}-2x-1=0\)の判別式は、\(49=7^{2}\)になります。(3次方程式の判別式ですので手計算でも可能ですが、sageを使いました。)
素数 | \(\bmod{7}\) | \( x^{3}+x^{2}-2x-1 \)の因数分解 |
---|---|---|
\( 3 \) | \( 3 \) | \( (x^{3}+x^{2}-2x-1) \) |
\( 5 \) | \( 5 \) | \( (x^{3}+x^{2}-2x-1) \) |
\( 7 \) | \( 0 \) | \( (x + 5)^{3} \) |
\( 11 \) | \( 4 \) | \( (x^{3}+x^{2}-2x-1) \) |
\( 13 \) | \( 6 \) | \( (x + 3) (x + 5) (x + 6) \) |
\( 17 \) | \( 3 \) | \( (x^{3}+x^{2}-2x-1) \) |
\( 19 \) | \( 5 \) | \( (x^{3}+x^{2}-2x-1) \) |
\( 23 \) | \( 2 \) | \( (x^{3}+x^{2}-2x-1) \) |
\( 29 \) | \( 1 \) | \( (x + 11) (x + 22) (x + 26) \) |
\( 31 \) | \( 3 \) | \( (x^{3}+x^{2}-2x-1) \) |
\( 37 \) | \( 2 \) | \( (x^{3}+x^{2}-2x-1) \) |
\( 41 \) | \( 6 \) | \( (x + 4) (x + 11) (x + 27) \) |
\( 43 \) | \( 1 \) | \( (x + 24) (x + 28) (x + 35) \) |
\( 47 \) | \( 5 \) | \( (x^{3}+x^{2}-2x-1) \) |
これをまとめると次のようになります。
\(x^{3}+x^{2}-2x-1\)の\(\bmod{p}\)における因数分解の法則は以下のとおり。
重根をもつのは\(p=7\)の場合のみ
\(p\equiv 1,6\pmod{7}\)のとき異なる1次式に分解する。つまり、完全分解する。
\(p\equiv 2,3,4,5 \pmod{7}\)のとき、既約である。
ダイアグラム
\(\mathbb{Q}(\zeta_{7})\)の中間体を図示すると下記のとおりです。
\[ \begin{array}{rcccl} & \mathbb{Q}(\zeta_{7})& \\ \ \ \ \ \nearrow & & \nwarrow \\ \mathbb{Q}(\sqrt{-7})=\mathbb{Q}(\zeta_{7}+\zeta_{7}^{2}+\zeta_{7}^{4})& & & \mathbb{Q}(\zeta_{7}+\zeta_{7}^{6})\\ \ \ \ \ \nwarrow& & \nearrow \\ &\mathbb{Q} & \end{array} \]
ここで、\(\mathbb{Q}(\zeta_{7})\)を定義する多項式\(\Phi_{7}\)を完全分解する素数\(p\)は、\(p\equiv 1\pmod{7}\)です。
また、上で見たとおり、\(\mathbb{Q}(\zeta_{7}+\zeta_{7}^{2}+\zeta_{7}^{4})\)を定義する多項式\(x^{2}+x-2\)を完全分解する素数\(p\)は、\(p\equiv 1,2,4\)です。そして、\(\mathbb{Q}(\zeta_{7}+\zeta_{7}^{6})\)を定義する多項式\(x^{3}+x^{2}-2x-1\)を完全分解する素数\(p\)は、\(p\equiv 1,2,4\pmod{7}\)です。
この完全分解する素数を図示すると以下とおりです。
\[ \begin{array}{rcl} & \{1\}& \\ \swarrow & & \searrow \\ \{1,2,4\}& & & \{1,6\}\\ \ \ \searrow& & \swarrow \\ &(\mathbb{Z} /7\mathbb{Z})^{\times} & \end{array} \]
この図もどこかで見ましたね。そうです、ガロア対応と全く同じ図となっています。
このように、円分体(及びその中間体)においては、ガロア対応において対応するガロア群が、対応する多項式が完全分解する素数を表しています。
もちろん、このようなことは一般の体(代数体)ではおこりません。円分体(一般的には代数体のアーベル拡大体)に独特な特徴です。
そもそも、ガロア群は、体の自己同型からなる群ですので、一般的には「素数」という概念がありません。
円分体においては、 \[\text{Gal}(\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q})\cong (\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times} \] という自然な同型があるため、ガロア群に「素数」という概念を導入することができます。
一般的には、代数体のアーベル拡大の場合、「素数(素イデアル)」に対し、Frobenius自己同型を導くガロア群の元がただ一つ存在しますので、素数(素イデアル)とガロア群の元を対応させることができます。
ここまで、多項式の分解の法則について解説してきましたが、より一般的には「素イデアル」の分解を考えることが必要となります。しかし、ある一定の「よい性質をもつ」多項式の場合、「多項式の因数分解」=「素イデアルの分解」となります。したがって、「よい性質をもつ」多項式を考える限り、「多項式の因数分解」で「素イデアルの分解」を代替することができます。
円分多項式は、「よい性質」を持っています。したがって、これまで見てきた多項式の因数分解で、素イデアルの分解を代替することができます。
今回は、ガウス周期を解とする多項式を考えました。ここで、ガウス周期を解とする多項式が「よい性質」を持つか問題となります。しかし、残念ながら、「よい性質」をもつとは限りません。
ガウス周期を解とする多項式が「よい性質を持たない」ことは、例えば、\(n=13\)のときの3周期が満たす多項式\(x^{4}+x^{3}+2x^{2}+-4x+3\)の判別式が\(3^{2}13^{3}\)となっており、13以外の素因数が含まれていることから分かります。 (n=13の場合のガウス周期 - 美的数学のすすめ) このため、この多項式は\(p=3\)の場合にも重根を持ってしまいます。(「よい性質を持つ」多項式であれば、重根を持つ素数は13に限られます。)