美的数学のすすめ

初等整数論のうち、平方剰余の相互法則の意味を当面の目標としたいと思います。ゆくゆくは、ガウス和、円分体論まで到達したいです。

7次の円分多項式の既約性

 今日は、前回の問題の続きです。前回の問題とは、

 多項式 \[ x^{n}-1\] を整数係数多項式の中で因数分解せよ

でした。

 今日は、\(n=7\)のとき、\(x^{7}-1=(x-1)(x^{6}+x^{5}+ x^{4}+x^{3}+ x^{2}+x+1)\)のうちの、\(x^{6}+x^{5}+ x^{4}+x^{3}+ x^{2}+x+1\)が整数係数多項式として既約(これ以上、整数係数多項式で因数分解できない。)であることを示します。

 \(x^{6}+x^{5}+ x^{4}+x^{3}+ x^{2}+x+1\)は、円周等分多項式の一種です。一般的に、\(p\)を素数とするとき、\(x^{p-1}+x^{p-2}+\cdots+x^{2}+x+1\)は\(p\)次の円周等分多項式とか円分多項式といい、既約であることが知られています。 一般的に、円周等分多項式の既約性は、Eisensteinの判定法を用いるか、\(\bmod{p}\)における既約方程式の性質(分離的、つまり重根をもたない)を使って証明することが多いです。ここでは、より原始的な方法を使って、\(p=7\)の場合の証明をしてみます。\(p\)が大きい場合に、この方法を一般化することは残念ながらできないようです(今のところできていません。)。しかし、方程式\(x^{p-1}+x^{p-2}+\cdots+x^{2}+x+1=0\)の解(つまり、1の\(p\)乗根)の構造(相互の関係)が、手に取るように分かるというメリットがあります。これを使えば、なぜ、正17角形は作図可能で、正7角形は作図不可能かよく分かると思います。

 円分多項式には、\(\Phi(x)\)の記号が用いられることが多いですので、ここでも \[ \Phi(x)= x^{6}+x^{5}+ x^{4}+x^{3}+ x^{2}+x+1 \] とおきます。目標は、\(\Phi(x)\)が整数係数多項式の中で既約であることを示すことです。

 既約性の証明

 一般的に、多項式\(f(x)\)が既約であることを示す場合、仮に可約である(つまり、因数分解できる)と仮定し、矛盾を導くという方法を用います。

 この場合では、\(\Phi(x)=x^{6}+x^{5}+ x^{4}+x^{3}+ x^{2}+x+1\)は6次式であり、1次式により分解できないことはすぐに分かりますので、分解できるとすると、(2次式)×(4次式)、(2次式)×(2次式)×(2次式)、(3次式)×(3次式)の3つの場合があります。そして、その1つ1つの場合に応じて、

\[ \Phi(x)=x^{6}+x^{5}+ x^{4}+x^{3}+ x^{2}+x+1=(x^{2}+ax\pm 1)(x^{4}+bx^{3}+cx^{2}+dx\pm1)\]

などとしたうえで、このような整数\(a,b,c,d\)は存在しないということを示すことになります。しかし、この方法は、場合分けの数が多くなり大変ですし、見通しも非常に悪いです。私が高校生のときは、この方法しか思いつきませんでした。今なら、もう少しましな方法で解けます。1の7乗根の出番です。

1の7乗根

 \(\zeta=\exp (\frac{2\pi i}{7})\)とおくと、1の7乗根は\(1,\zeta,\zeta^{2},\cdots,\zeta^{6}\)の7つです。したがって、方程式 \[ x^{6}+x^{5}+ x^{4}+x^{3}+ x^{2}+x+1=0\] の解は、 \[ \zeta,\zeta^{2},\zeta^{3},\zeta^{4},\zeta^{5},\zeta^{6}\] の6つになります。

\(x^{6}+x^{5}+ x^{4}+x^{3}+ x^{2}+x+1\)が2次式で割り切れるとき

 \(x^{6}+x^{5}+ x^{4}+x^{3}+ x^{2}+x+1\)が、2次の整数係数多項式で割り切れると仮定します。 すると、その2次多項式=0の解は、上の、6つの解のうちのいずれか2つとなります。

 仮に、2次多項式=0の解の1つが\(\zeta\)であるとすると、もう一つは、これと掛けて整数となるものですので\(\zeta^{6}\)に決まります。(\(\zeta^{i}\)が整数となるのは\(i\)が7で割り切れる場合に限ります。)

 同様に、仮に、2次多項式=0の解の1つが、\(\zeta^{2}\)であるとするともう一つは\(\zeta^{5}\)に、\(\zeta^{3}\)であるとするともう一つは\(\zeta^{4}\)に決まることになります。

 このように考えると、\(x^{6}+x^{5}+ x^{4}+x^{3}+ x^{2}+x+1\)を割り切る2次の整数係数多項式は、

\[\begin{align} (x-\zeta)(x-\zeta^{6}) &= x^{2}-(\zeta+\zeta^{6})x+1 \\ (x-\zeta^{2})(x-\zeta^{5}) &= x^{2}-(\zeta^{2}+\zeta^{5})x+1 \\ (x-\zeta^{3})(x-\zeta^{4}) &= x^{2}-(\zeta^{3}+\zeta^{4})x+1 \end{align} \]

のいずれかになります。そこで、 \[\begin{align} \alpha=\zeta+\zeta^{6} \\ \beta=\zeta^{2}+\zeta^{5} \\ \gamma=\zeta^{3}+\zeta^{4} \end{align} \] とおいたときに、\(\alpha,\beta,\gamma\)が整数でないことを示せば、十分です。

 そこで、\(n=5\)の場合と同様に\(\alpha,\beta,\gamma\)が満たす方程式-つまり、3次方程式-を見つけることにします。そこで、3次方程式の解と係数の関係を用います。

 \[ \alpha+\beta+\gamma=\zeta+\zeta^{2}+\zeta^{3}+\zeta^{4}+\zeta^{5}+\zeta^{6}=-1\]

です。

また、\(\zeta^{7}=1\)ですので、 \[ \begin{align} \alpha\beta &= (\zeta+\zeta^{6} )(\zeta^{2}+\zeta^{5})\\ &=\zeta^{3}+\zeta^{6}+\zeta+\zeta^{4} \\ &=\alpha+\gamma \end{align} \] です。同様に、 \[ \begin{align} \beta\gamma &= (\zeta^{2}+\zeta^{5})(\zeta^{3}+\zeta^{4})\\ &=\zeta^{5}+\zeta^{6}+\zeta+\zeta^{2} \\ &=\beta+\alpha \end{align} \] \[ \begin{align} \gamma\alpha &= (\zeta^{3}+\zeta^{4})(\zeta+\zeta^{6})\\ &=\zeta^{4}+\zeta^{2}+\zeta^{5}+\zeta^{3} \\ &=\gamma+\beta \end{align} \] です。したがって、 \[ \alpha\beta+\beta\gamma+\gamma\alpha=2(\alpha+\beta +\gamma)=-2\]

と分かります。

最後に、\(\alpha\beta\gamma\)を計算します。これは、上の式を繰り返し使うことにより求められます。

\[\begin{align} \alpha\beta\gamma &=(\alpha+\gamma)\gamma\\ &=\alpha\gamma+\gamma^{2} \\ &=\gamma+\beta+(\zeta^{3}+\zeta^{4})^{2} \\ &=\gamma+\beta+\zeta^{6}+2+\zeta \\ &=\alpha+\beta+\gamma+2\\ &=-1+2=1 \\ \end{align}\]  以上より、\(\alpha,\beta,\gamma\)は、方程式 \[ x^{3}+x^{2}-2x-1=0 \tag{1}\] の解であることが分かります。そして、この方程式が整数解をもたないことはすぐに分かります。よって、\(\Phi(x)=x^{6}+x^{5}+ x^{4}+x^{3}+ x^{2}+x+1\)は、2次の整数係数多項式では割り切れないことが分かります。

 方程式 \[ x^{6}+x^{5}+ x^{4}+x^{3}+ x^{2}+x+1=0\] の解を求める通常の方法は、両辺を\(x^{3}\)で割って \[ x^{3}+x^{2}+ x+1+x^{-1}+ x^{-2}+x^{-3}=0\] としたうえで、 \[(x+x^{-1})^{3}-3(x+x^{-1})+(x+x^{-1})^{2}-2+(x+x^{-1})+1=0\] と変形し、 \(t=x+x^{-1}\)で変数を\(t\)に変換します。すると、 \[ t^{3}+t^{2}-2t-1=0 \] となります。この方程式は、上の方程式(1)と同じになります。 これは、\(t=x+x^{-1}\)と変数変換をした方程式は、\(\zeta+\zeta^{6},\zeta^{2}+\zeta^{5},\zeta^{3}+\zeta^{4}\)を解とする方程式とが同じことを意味しています。(\(n=5\)のときも同じことが成立しました。)

   

 \(\zeta^{6}=\zeta^{-1}\)ですので、オイラーの公式によると\(\alpha=\zeta+\zeta^{6}=2\cos\frac{2\pi}{7}\)であることが分かります。同様に \(\beta=\zeta^{2}+\zeta^{5}=2\cos\frac{4\pi}{7}\)、\(\gamma=2\cos\frac{3\pi}{7}\)となります。これを用いると\(\alpha\beta\)などは、三角函数の倍角の公式や加法定理を用いて求めることができます。実際、ガウスも正17角形の作図可能性を示す際に、このような方法を用いていたようです。  オイラーの公式は、単にその形が美しいということだけではなく、三角函数の加法定理なども掛け算に還元してしまう実用的な道具であることがよく分かります。

 1の7乗根

 この方法で、\(\Phi(x)=0\)を解く場合には、方程式(1)(3次式ですのでカルダノの公式などを用いて解いたうえで)を解き、\(\alpha,\beta,\gamma\)を求めます。そのうえで、\(\alpha=\zeta+\zeta^{6}=\zeta+\zeta^{-1}\)を\(\zeta\)の2次式とみて解くことになります。つまり、3次式→2次式の順で解いていくことになります。

 \(\Phi(x)=0\)を解くのに、必ず3次式が出てきてしまうことが、正7角形が作図不可能な原因です。「必ず3次式が出てきてしまう」というのは、ガロアの理論を用いれば一目瞭 然ですし、そうでなくとも、1の7乗根には、立方根が出てくることからも分かります。  正7角形は、作図不能な最も小さな正多角形となります。しかし、折り紙では作成できるようです。折り紙で作成可能であることは、ごく最近知りました。これまで、折り紙で作成可能かという問題を考えたこともありませんでしたが、仮に、考えていたとしても、定規とコンパスでの作図問題と同じという感覚を持っていた気がします。これには、本当に驚きました!

正七角形の折り方:完成までの14のステップ - tsujimotterのノートブック

\(\Phi(x)=x^{6}+x^{5}+ x^{4}+x^{3}+ x^{2}+x+1\)が3次式で割り切れるとき

 次に、\(\Phi(x)=x^{6}+x^{5}+ x^{4}+x^{3}+ x^{2}+x+1\)が3次の整数係数多項式で割り切れることがないことを示します。\(x^{6}+x^{5}+ x^{4}+x^{3}+ x^{2}+x+1\)が3次式\(f(x)\)で割り切れるとき、方程式\(f(x)=0\)の3つの解は、\(\zeta,\zeta^{2},\zeta^{3},\zeta^{4},\zeta^{5},\zeta^{6}\)のうちの3つになります。

そして、この6つの中の3つを選び、積が整数となるものは、\(\zeta,\zeta^{2},\zeta^{4}\)の組み合わせか、\(\zeta^{3},\zeta^{5},\zeta^{6}\)しかありません。

 ここで、\({1,2,4}\)は\(\bmod{7}\)で平方剰余であり、\({3,5,6}\)は\(\bmod{7}\)は平方非剰余です。(これは同じことが\(n=5\)の場合にも成立していました。)

 これはもちろん偶然ではなく、一般的に\(\zeta\)を原始\(p\)乗根(\(p\)は奇素数)とすると、\(r\)が\(\bmod{p}\)の平方剰余を動くとき、\( \zeta\)の\(r\)乗の積は整数となります。しかし、残念ながら逆は成り立ちません。

したがって、\(\Phi(x)\)は、 \[ (x-\zeta)(x-\zeta^{2})(x-\zeta^{4})=x^{3}-(\zeta+\zeta^{2}+\zeta^{4})x^{2}+(\zeta^{3}+\zeta^{5}+\zeta^{6})x-1 \] か \[ (x-\zeta^{3})(x-\zeta^{5})(x-\zeta^{6})= x^{3}-(\zeta^{3}+\zeta^{5}+\zeta^{6})x^{2}+(\zeta+\zeta^{2}+\zeta^{4})x-1 \]で割り切れることになります。  ここで、\(\alpha’=\zeta+\zeta^{2}+\zeta^{4},\beta’=\zeta^{3}+\zeta^{5}+\zeta^{6}\)とおいたときに、\(\alpha’,\beta’\)が整数でないことを示します。そこで、\(\alpha’,\beta’\)が解となる方程式を考えると \[ \alpha’+\beta’=-1\] \[\begin{align} \alpha’\beta’ &= (\zeta+\zeta^{2}+\zeta^{4})(\zeta^{3}+\zeta^{5}+\zeta^{6})\\ &=\zeta^{4}+\zeta^{6}+1+\zeta^{5}+1+\zeta+1+\zeta^{2}+\zeta^{3}\\ &=2 \end{align} \]

したがって、\(\alpha’,\beta’\)は、方程式 \[x^{2}+x+2=0 \tag{2}\] の解となりますが、この方程式は整数解をもたないことは簡単に分かります。したがって、\(\Phi(x)\)は3次式でも割り切れないことが分かりました。

方程式(2)の判別式は-7ですので、\(\alpha’-\beta’=\pm\sqrt{7}i\)であることが分かります。\(\alpha’-\beta’\)はガウス和といい、\(\alpha’-\beta’ =\sqrt{7}i\)となることが知られています。

1の7乗根の算出

 この方法により、方程式\(\Phi(x)=0\)を解く場合には、2次方程式(2)を解いたうえで、\(\alpha’,\beta’\)を求め、\(\alpha’=\zeta+\zeta^{2}+\zeta^{4}\)を\(\zeta\)の4次方程式とみて、4次方程式を解くことになります。しかし、先ほどの方法では、3次方程式→2次方程式を解くことになりました。ガロア理論を考えても、2次方程式と3次方程式を解くことになるのが正しいと思います。おそらく、この4次方程式は、\(\zeta^{7}=1\)をうまく使うことにより、3次方程式に還元できるのではないかと思います。

 \(x^{n}-1\)の因数分解

 さて、ここまでの結果をまとめると次のようになります。(\(n=9,10,11\)の場合を継ぎ足しました。)

\(n\) 因数分解 因数の数  最高次数
2 \((x-1)(x+1)\) 2 1
3 \((x-1)(x^{2}+x+1)\) 2 2
4 \((x-1)(x+1)(x^{2}+1)\) 3 2
5 \((x-1)(x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1)\) 2 4
6 \((x-1)(x+1)(x^{2}+x+1)(x^{2}-x+1)\) 4 2
7 \((x-1)(x^{6}+x^{5}+x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1)\) 2 6
8 \((x-1)(x+1)(x^{2}+1)(x^{4}+1)\) 4 4
9 \((x-1)(x^{2}+x+1)(x^{6}+x^{3}+1)\) 3 6
10 \((x-1)(x+1)(x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1)(x^{4}-x^{3}+x^{2}-x+1)\) 4 4
11 \((x-1)(x^{10}+x^{9}+x^{8}+x^{7}+x^{6}+x^{5}+x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1)\) 2 10

 さて、この表から一般の\(n\)について、何か法則は見つけられるだろうか?