美的数学のすすめ

初等整数論のうち、平方剰余の相互法則の意味を当面の目標としたいと思います。ゆくゆくは、ガウス和、円分体論まで到達したいです。

ガウス和

 \(n=5\)の場合

 \(n=5\)の場合の円分方程式\(\Phi_{5}=x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1=0\)の解の1を\(\zeta_{5}=\exp(\frac{2\pi i}{5})\)とおきます。このとき、かつてやったように(大学への数学 - 美的数学のすすめ

\[ \alpha=\zeta_{5}+\zeta_{5}^{4},\ \ \beta=\zeta_{5}^{2}+\zeta_{5}^{3}\] とおくと、 \[ \alpha+\beta=\zeta_{5}^{4}+\zeta_{5}^{3}+\zeta_{5}^{2}+\zeta_{5}=-1 \]

また、\(\zeta_{5}^{5}=1\)であることから、

\[\begin{align} \alpha\beta &=(\zeta_{5}+\zeta_{5}^{4})(\zeta_{5}^{2}+\zeta_{5}^{3})\\ &=\zeta_{5}^{3}+\zeta_{5}^{4}+\zeta_{5}+\zeta_{5}^{2}\\ &=-1 \end{align} \]

 したがって、\(\alpha,\beta\)は、 \[\tag{1} x^{2}+x-1=0\] の解となります。そして、この2次方程式の判別式は5ですので、 \[ \alpha-\beta=\pm\sqrt{5}\] であることも分かります。

 なぜ、\[ \alpha=\zeta_{5}+\zeta_{5}^{4},\ \ \beta=\zeta_{5}^{2}+\zeta_{5}^{3}\] とおくと、うまくいくのでしょうか。

 試しに、\[ \alpha=\zeta_{5}+\zeta_{5}^{2},\ \ \beta=\zeta_{5}^{3}+\zeta_{5}^{4}\] とおいてみます。すると、 \[ \alpha+\beta=\zeta_{5}^{4}+\zeta_{5}^{3}+\zeta_{5}^{2}+\zeta_{5}=-1 \] は成り立ちます。しかし、 \[\begin{align} \alpha\beta &=(\zeta_{5}+\zeta_{5}^{2})(\zeta_{5}^{3}+\zeta_{5}^{4})\\ &=\zeta_{5}^{4}+1+1+\zeta_{5}\\ &=2+\zeta_{5}+\zeta_{5}^{4} \end{align} \] となってうまくいきません。

 \[ \alpha=\zeta_{5}+\zeta_{5}^{4},\ \ \beta=\zeta_{5}^{2}+\zeta_{5}^{3}\] とおくと、綺麗な形になる、その理由の一応の答えは、

\(\zeta_{5}\)と\(\zeta_{5}^{4}\)が複素共役で、\(\zeta_{5}^{2}\)と\(\zeta_{5}^{3}\)が複素共役であるから、というものです。確かにこれは一理ありそうです。

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図:\(n=5\)の場合のガウス和

 \(n=7\)の場合

 それでは、\(n=7\)のときはどうでしょうか。こちらも、かつてやったように(7次の円分多項式の既約性 - 美的数学のすすめ)、 \(\zeta_{7}=\exp(\frac{2\pi i}{7})\)とし、 \[\alpha=\zeta_{7}+\zeta_{7}^{2}+\zeta_{7}^{4},\ \ \beta=\zeta_{7}^{3}+\zeta_{7}^{5}+\zeta_{7}^{6}\]とおくと

\[ \alpha+\beta=\zeta_{7}+\zeta_{7}^{2}+\zeta_{7}^{4}+\zeta_{7}^{3}+\zeta_{7}^{5}+\zeta_{7}^{6}=-1\]となります。また、 \[\begin{align} \alpha\beta &= (\zeta_{7}+\zeta_{7}^{2}+\zeta_{7}^{4})(\zeta_{7}^{3}+\zeta_{7}^{5}+\zeta_{7}^{6})\\ &=\zeta_{7}^{4}+\zeta_{7}^{6}+1+\zeta_{7}^{5}+1+\zeta_{7}+1+\zeta_{7}^{2}+\zeta_{7}^{3}\\ &=2 \end{align} \]

したがって、\(\alpha,\beta\)は、方程式 \[x^{2}+x+2=0 \tag{2}\] の解となります。そして、この2次方程式の判別式は\(-7\)ですので、 \[ \alpha-\beta=\pm\sqrt{-7}\] と分かります。

なぜ、 \[\alpha=\zeta_{7}+\zeta_{7}^{2}+\zeta_{7}^{4},\ \ \beta=\zeta_{7}^{3}+\zeta_{7}^{5}+\zeta_{7}^{6}\]とおくとうまくいったのでしょうか?今度は、複素共役だからという理由は使えません。これを理解するには、平方剰余を持ち出す必要があります。

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 図:平方剰余の和

   

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 図:平方非剰余の和

   

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 図:ガウス和(完成)

平方剰余とは

 \(p\)を奇素数とします。すると、\(\left(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\right)^{\times}\)は巡回群となり原始根が存在します(see原始根の存在定理-剰余類の基本的な性質(その3) - 美的数学のすすめ)。

 原始根の1つを\(r\)とすると\(\left(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\right)^{\times}\)の元は、 \[ \left(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\right)^{\times}=\{1,r,r^{2},\cdots,r^{p-3},r^{p-2}\} \]と表せます。

 このとき、\(r\)の偶数乗 \[ \{1,r^{2},r^{4},\cdots,r^{p-3}\}\] のことを平方剰余といい、奇数乗 \[ \{r,r^{3},\cdots,r^{p-2}\}\] のことを平方非剰余といいます。

 この定義は、原始根\(r\)の取り方によりません。(\(p\)が奇数なので\(p-1\)は偶数になることがポイントです。)

 平方剰余・平方非剰余は、\(\left(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\right)^{\times}\)を2種類に分類します。この分類は、例えば、整数を偶数と奇数に分けたり、対称群を偶置換と奇置換に分けたりするのと同じように、自然で、基本的な分類です。

 通常は、2次合同式\(x^{2}\equiv a\pmod{p}\)が解がある場合に\(a\)を平方剰余、解がない場合を平方非剰余と定義することが多いですが、この定義は不自然と感じる人や人口的に感じる人もいると思います。ここでは、整数の偶数・奇数と同様に自然な定義であることを感じてもらうために、あえて上のような定義にしました。

\(p=5\)の場合の平方剰余・平方非剰余

 \(p=5\)の場合、2が原始根になりますので、平方剰余\(=\{1,4\}\)、平方非剰余\(=\{2,3\}\)と分かります。

 そして、\(\alpha=\zeta_{5}+\zeta_{5}^{4}\)の肩に乗っている数字は、\(\bmod{5}\)の平方剰余であり、\(\beta=\zeta_{5}^{2}+\zeta_{5}^{3}\)の肩に乗っている数字は\(\bmod{5}\)の平方非剰余であることが分かります。

\(p=7\)の場合の平方剰余・平方非剰余

 同様に、\(p=7\)の場合、3が原始根になりますので、平方剰余\(=\{1,2,4\}\)、平方非剰余\(=\{3,5,6\}\)と分かります。

 そして、\(\alpha=\zeta_{7}+\zeta_{7}^{2}+\zeta_{7}^{4}\) の肩に乗っている数字は、\(\bmod{7}\)の平方剰余であり、\(\beta=\zeta_{7}^{3}+\zeta_{7}^{5}+\zeta_{7}^{6}\)の肩に乗っている数字は\(\bmod{7}\)の平方非剰余であることが分かります。

\(p=11\)の場合

 ここまでくれば、\(\alpha,\beta\)のとり方が分かります。\(p=11\)のとき、\(\bmod{11}\)の原始根は2ですので、平方剰余\(=\{4,5,9,3,1\}\)、平方非剰余\(\{2,8,10,7,6\}\)です。

 そこで、\(\zeta=\exp(\frac{2\pi i}{11})\)とおいたうえで、

\[ \alpha=\zeta+\zeta^{3}+\zeta^{4}+\zeta^{5}+\zeta^{9} \] \[ \beta=\zeta^{2}+\zeta^{6}+\zeta^{7}+\zeta^{8}+\zeta^{10} \]

とおくと、\(\alpha+\beta=-1\)がわかります。 \[ \begin{split} \alpha\beta &= (\zeta+\zeta^{3}+\zeta^{4}+\zeta^{5}+\zeta^{9} )(\zeta^{2}+\zeta^{6}+\zeta^{7}+\zeta^{8}+\zeta^{10}) \\ &= \zeta^{3}+\zeta^{7}+\zeta^{8}+\zeta^{9}+1\\ &\ \ +\zeta^{5}+\zeta^{9}+\zeta^{10}+1+\zeta^{2}\\ &\ \ \ \ +\zeta^{6}+\zeta^{10}+1+\zeta+\zeta^{3}\\ &\ \ \ \ \ \ +\zeta^{7}+1+\zeta^{10}+\zeta+\zeta^{2}+\zeta^{4}\\ &\ \ \ \ \ \ \ \ +1+\zeta^{4}+\zeta^{5}+\zeta^{6}+\zeta^{8}\\ &= 5+2(\zeta+\zeta^{2}+\cdots+\zeta^{9}+\zeta^{10})\\ &=3 \end{split} \]

 したがって、\(\alpha,\beta\)は、 \[x^{2}+x+3=0\] の解となります。そして、この2次方程式の判別式は、\(-11\)ですので、 \[\alpha-\beta=\pm\sqrt{-11}\] となります。

\(p=13\)の場合

\(p=13\)のとき、2が原始根になります。そして、2のべき乗は、順番に\(2,4,8,3,6,12,11,9,5,10,7\)となりますので、平方剰余\(=\{1,4,3,12,9,10\}=\{\pm1,\pm3,\pm4\}\)、平方非剰余\(=\{2,8,6,11,5,7\}=\{\pm2,\pm5,\pm6\}\)と分かります。そこで、\(\zeta=\exp(\frac{2\pi i}{13})\)とし、

\[\begin{align} \alpha &=\zeta+\zeta^{-1}+\zeta^{3}+\zeta^{-3}+\zeta^{4}+\zeta^{-4} \\ \beta &=\zeta^{2}+\zeta^{-2}+\zeta^{5}+\zeta^{-5}+\zeta^{6}+\zeta^{-6} \end{align} \] とすると、\(\alpha+\beta=\zeta+\zeta^{2}+\cdots+\zeta^{11}+\zeta^{12}=-1\)です。

 ここで、\(C(n)=\zeta^{n}+\zeta^{-n}\)とおくと、 \[\begin{align} C(n)C(m)&=(\zeta^{n}+\zeta^{-n})(\zeta^{m}+\zeta^{-m})\\ &=\zeta^{n+m}+\zeta^{-n-m}+\zeta^{n-m}+\zeta^{-n+m}\\ &=C(n+m)+C(n-m) \end{align} \] が成り立ちます。(\(C(n)=2\cos(\frac{2\pi n}{13})\)ですので、加法定理からも証明できます。) これを使うと、

\[ \begin{split} \alpha\beta &= (C(1)+C(3)+C(4))(C(2)+C(5)+C(6)) \\   &= C(3)+C(1)+C(6)+C(4)+C(7)+C(5)\\   &\ \ +C(5)+C(1)+C(8)+C(2)+C(9)+C(3)\\   &\ \ \ \ \ +C(6)+C(2)+C(9)+C(1)+C(10)+C(2)\\   &=3(C(1)+C(2)+C(3))\\   &=-3 \end{split} \]

 したがって、\(\alpha,\beta\)は、 \[x^{2}+x-3=0\] の解となります。したがって、この2次方程式の判別式は、\(13\)ですので、 \[\alpha-\beta=\pm\sqrt{13}\] となります。

 まとめ

 これらのことから次のことが予想できます。

 \(p\)を奇素数、\(\zeta=\exp(\frac{2\pi i}{p})\)とし、\(\alpha\)を\(\zeta\)の平方剰余乗の積、\(\beta\)を\(\zeta\)の平方非剰余乗の積とすると、 \[\alpha-\beta=\pm\sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}\]

右辺の符号は常にプラスとなることが知られています。

 なお、\(p=3,5\)のときは、 \[ \zeta_{3}=\frac{-1+\sqrt{-3}}{2},\ \ \zeta_{5}=\frac{-1+\sqrt{5}+\sqrt{10+2\sqrt{5}}}{4}\] ですので、確かに\( \zeta_{3}\)には\(\sqrt{-3}\)が含まれ、\( \zeta_{5}\)には\(\sqrt{5}\)が含まれていることが分かります。ガウス和というのは、\(\zeta,\zeta^{2},\cdots\)をうまく組み合わせて加減することにより、\(\sqrt{-3}\)や\(\sqrt{5}\)を取り出す操作だということが分かります。しかし、これ以上の数になると、\(\zeta_{p}\)に\(\sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}\)が含まれていることを確かめるだけでも大変なことです。(今回、はじめて数式処理ソフトの1つのSageを使って、\(\zeta_{7}\)の計算を試みましたがうまくいきませんでした。)

 それを考えると、ガウス和というのがいかに偉大なものなのかということがよく分かりました。