今回は、円分多項式の分解体である\(\mathbb{Q}(\zeta_{n})\)のガロア群\(\text{GaL}(\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q})\)を考えます。
ガロア理論の初歩については下記をご覧ください。
円分多項式の性質
\(\Phi_{n}(x)\)を\(n\)番目の円分多項式とし、1の\(n\)乗根の1つを\(\zeta_{n}=\exp(\frac{2\pi i}{n})\)とします。円分多項式の基本的な性質についてあらためてまとめてみます。
① \(\Phi_{n}(x)\)は全ての1の原始n乗根を解とする多項式である。
② \(\Phi_{n}(x)\)は有理数係数多項式として既約である。
③ \(\zeta_{n}^{i}\)が原始\(n\)乗根 \(\Longleftrightarrow\) \(i\)が\(n\)と互いに素 \(\Longleftrightarrow\) \(i\in(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}\)
④ \(\Phi_{n}(x)\)の次数は\(\varphi(n)\)である。
特に、②の既約であることは重要です。
\(\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q}\)の自己同型
\(\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q}\)の自己同型を求めてみましょう。\(\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q}\)の自己同型とは、\(\mathbb{Q}(\zeta_{n})\)から\(\mathbb{Q}(\zeta_{n})\)への体同型で、\(\mathbb{Q}\)で恒等写像となるものです。\(\mathbb{Q}\)で恒等写像となることから、\(\zeta_{n}\)の行き先を定めれば、自己同型は定まることになります。
\(\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q}\)の自己同型を\(\sigma\)とすると、\(\sigma(\zeta_{n})\)は円分多項式\(\Phi_{n}(x)=0\)の解となりますので、\(\sigma(\zeta_{n})=\zeta_{n}^{i}\ (i\in(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times})\)と表せます。
逆に\(i\in(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}\)に対して\(\sigma_{i}\)を\(\sigma_{i}(\zeta_{n})=\zeta_{n}^{i}\)とすると\(\sigma_{i}\)は\(\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q}\)の自己同型を導くことが分かります。
(i) \(\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q}\)の自己同型は、\(\sigma_{i}\ (i\in(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}\))からなる。
(ii) \(\sigma_{i}\)は1のn乗根を\(i\)乗する。
(ii)は1の原始n乗根のみでなくすべてのn乗根に対して成り立ちます。\(\zeta_{n}^{j}\)を1のn乗根とすると\(\sigma_{i}(\zeta_{n}^{j})=\sigma_{i}(\zeta_{n})^{j}=\zeta_{n}^{ij}\)となります。つまり、\(\sigma_{i}\)はすべての1のn乗根を\(i\)乗することを意味しています。
これにより、ここまでは1の原始\(n\)乗根の1つとして\(\zeta_{n}=\exp(\frac{2\pi i}{n})\)としてきましたが、\(\sigma_{i}\)はこの取り方に依存していないことが分かります。
以上より次が示せました。
\[\text{Gal} (\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q})=\{\ \sigma_{i}\ |\ i\in (\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}\} \]
(参考)-以下は、将来考察することの見通しです-
\(\sigma_{i}\)はすべての1のn乗根を\(i\)乗することに注意しましょう。したがって、\(p\)を\(n\)と互いに素な素数とするとき、\(\sigma_{p}\)はすべての1のn乗根を\(p\)乗することになります。
一方、\(\mathbb{F}_{p}\)を位数\(p\)の有限体、\(\mathbb{F}_{q}\)をその有限次拡大体とすると、\(\mathbb{F}_{q}/\mathbb{F}_{p}\)の自己同型は、Frobenius自己同型写像と呼ばれる\(x\mapsto x^{p}\)により生成されることが知られています。このFrobenius自己同型も\(\mathbb{F}_{q}\)の元を\(p\)乗することに注意しましょう。
この考察により、\(\sigma_{p}\)とFrobenius自己同型写像との関連が示唆されます。\(n\)と互いに素な素数(素イデアル)\(p\)をとる事により、Gal\( (\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q})\)の元を\(\bmod{p}\)することができますが、\(\sigma_{p}\)を\(\bmod{p}\)するとFrobenius自己同型になることを示唆しています。これが、円分体の素数の分解を考察する際の重要なポイントになります。
以下、Gal\( (\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q})\)の群構造を決定します。
Gal\( (\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q})\)の構造
\(i,j\in(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}\)に対して合成写像\(\sigma_{i}\circ\sigma_{j}\)を考えます。
\(\sigma_{j}\)は1のn乗根を\(j\)乗し、\(\sigma_{i}\)は1のn乗根を\(i\)乗するため、\(\sigma_{i}\circ\sigma_{j}\)は1のn乗根を\(ij\)乗します。したがって、
\[\sigma_{i}\circ\sigma_{j}=\sigma_{ij} \]
したがって、\(\text{Gal} (\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q})\)は\((\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}\)と同型であることが分かります。
\[\text{Gal} (\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q})\cong(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{\times}\]
繰り返しになりますが、この同型は1の原始n乗根\(\zeta_{n}\)の取り方によらない自然な同型です。
このように\(\text{Gal} (\mathbb{Q}(\zeta_{n})/\mathbb{Q})\)がアーベル群(可換群)であることが分かりました。類体論の対称は、ガロア群がアーベル群となる体の拡大ですが、円分体はその典型例です。
円分体のガロア群が決定できましたので、次回、円分体の部分体をこのガロア群の部分群から決定してみます。