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美的数学のすすめ

初等整数論のうち、平方剰余の相互法則の意味を当面の目標としたいと思います。ゆくゆくは、ガウス和、円分体論まで到達したいです。

正17角形とガウス周期 ― 再び ―

 ガウスは、19歳のある朝目覚めた刹那に、正17角形が定規とコンパスで作図可能であることに気がつきました。これは、ギリシャ時代以来の大発見でしたが、しかし、ガウスはこれを発見した当時から、この発見が、もっと大きな理論の一つの系にしか過ぎないことに気がついていました。

 ガウスは、正17角形の作図可能性に気が付いたのは、実際の作図方法に気が付いたのではありません。そうではなく、1の17乗根が2次方程式を繰り返し解くことにより求められることに気が付いたのでした。ガウスは1の\(n\)乗根に関してさらに大きな理論を気が付いていました。今回は、ガウスが発見した1の\(n\)乗根の性質についてです。

ガウスがやったこと

 1の\(n\)乗根に関して、ガウスは次のことを証明しました。

 1. 正\(n\)角形が、コンパスと定規で作図可能な条件を完全に決定した。

 \(n\)が素数\(p\)のときに限定すると、ガウスが発見するまで、正3角形と正5角形しか作図可能であると知られていませんでした。ガウスは、正\(p\)角形が作図可能である必要十分条件が\(p\)がフェルマー素数であることを示しました。ここでフェルマー素数とは、\(p=2^{2^{i}}+1\)( \(i\)は0以上の整数)と表せる素数をいいます。\(17=2^{2^{2}}+1=2^{4}+1\)ですので、17はフェルマー素数です。

 フェルマー素数は、
 \(2^{1}+1 =3\)
 \(2^{2}+1 =5\)
 \(2^{4}+1 =17\)
 \(2^{8}+1 =257\)
 \(2^{16}+1 =65537\)

の5つしか発見されていません。

 2. 円分多項式\(\Phi_{n}(x)=0\)が代数的に解けることを証明した。

 「代数的に解ける」とは、加減乗除の四則演算と、べき乗根の有限回の組み合わせで表すことができることを意味します。つまり、1の\(n\)乗根が加減乗除の四則演算と、べき乗根の有限個の組み合わせで表すことができることを意味しています。

 ガウスがこれを示したとき、まだアーベルやガロアにより、「5次以上の方程式は一般的には代数的に解けない」ことは証明されていませんでしたが、ガウス自身、このことを予想していたと言われています。「5次以上の方程式は一般的には代数的に解けない」からこそ、「5次以上の方程式であっても、代数的に解ける場合がある。」ことは、重要な意味を持っています。それもいくら次数を大きくしても代数的に解ける方程式があることを証明しました。これはこれで驚くべきことです。

 1.の正多角形の作図可能性はこれの特殊な場合になります。ガウスは、フェルマー素数の場合は、1の\(p\)乗根は2次方程式を有限回解くことにより解けることを示したのでした。(作図可能性と2次方程式を有限回解くことによって求められるというのは同値です。)

 3. ガウス和を決定した。

 ガウス和については下記をご覧ください。ガウス和の絶対値が\( \sqrt{(-1)^{\frac{p-1}{2}}p}\)となることは比較的容易に示せますが、この符号の決定にはガウスをしても4年かかりました。ガウスはガウス和を用いて、平方剰余の相互法則の証明を与えています。

biteki-math.hatenablog.com

 3.は、上の1.,2.と少し様相が異なるものです。1.2.は現代の言葉では、ガロア理論に吸収されるものですが、3.はガロア理論から導けるものではありません。純整数論的な結果です。

ガウスの着想

 ガウスは、これらの結果を1の\(p\)乗根と\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)と結びつけることにより示したのでした。以下、\(p\)を素数とします。

1の\(p\)乗根と\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)

 1の原始\(p\)乗根の1つを\(\zeta\)とすると、1の\(p\)乗根は、 \[ \{\ \zeta,\zeta^{2},\zeta^{3},\cdots,\zeta^{p-1},1\ \}\] です。そして、\( \zeta^{n}\zeta^{m}=\zeta^{n+m}\)ですので、1の\(p\)乗根は加法群\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)と同型です。 \[ \{ {\text 1の}p{\text 乗根}\} \cong \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\]

 ガウス以前からオイラーの公式は知られていましたし、それ以前から、ド・モアブルの定理(\( (\sin x+i\cos x)^{n}=\sin nx+\cos nx\) )は知られていましたので、このこと自体は驚くべきことではありません。

 ガウスの着想はさらにこれを推し進め、1の\(p\)乗根を\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)と対応させたのでした。このことを詳しく見ていきましょう。

原始根定理

 まず、ガウスは原始根定理を自ら証明し、\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)が巡回群であることを示しました。(当時は巡回群という用語はまだありませんが。)\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)の原始根の1つを\(r\)とすると、1の\(p\)乗根はこの\(r\)を用いて

\[ \{\ \zeta^{r},\zeta^{r^{2}},\zeta^{r^{3}},\cdots,\zeta^{r^{p-1}}\ \}\]

と表すことができます。この表し方こそ、1の\(p\)乗根(つまり、円分拡大)を考えるうえで本質的であるとガウスは気が付いたのでした。

例:\(p=5\)とすし、原始根\(r=2\)をとります。すると、1の5乗根は \[ \{\ \zeta^{2}, \zeta^{4}, \zeta^{8}=\zeta^{3},\zeta^{16}=\zeta\ \}\] と表すことができます。

ガウス周期

 ガウスは1の\(p\)乗根を \[ \{\ \zeta^{r},\zeta^{r^{2}},\zeta^{r^{3}},\cdots,\zeta^{r^{p-1}}\ \}\]

と表したうえで、これをグループに分けました。

 例えば、\(p=17\)とすると\(p-1=16\)となります。そして、16の約数として例えば2をとります。すると、1の\(17\)乗根は、

\[ \{\ \zeta^{r^{2}},\zeta^{r^{4}},\zeta^{r^{6}},\zeta^{r^{8}},\cdots,\zeta^{r^{16}}\ \}\]

\[ \{\ \zeta^{r},\zeta^{r^{3}},\zeta^{r^{5}},\zeta^{r^{7}},\cdots,\zeta^{r^{15}}\ \}\]

に分類できます。 つまり、 \[\zeta^{r^{{\text 奇数}}}\ {\text と}\zeta^{r^{{\text 奇数}}}\] に分類します。 そして、前者の和を \[\alpha=\zeta^{r^{2}}+\zeta^{r^{4}}+\zeta^{r^{6}}+\zeta^{r^{8}}+\cdots+\zeta^{r^{16}}\] 後者の和を \[\beta=\zeta^{r}+\zeta^{r^{3}}+\zeta^{r^{5}}+\zeta^{r^{7}}+\cdots+\zeta^{r^{15}}\] とすると、解と係数の関係より、\(\alpha,\beta\)を解とする有理数係数の2次方程式があることが分かります。(有理数係数というのがポイントです。また、実際には整数係数になります。)

 また、ガウス和とは\(\alpha-\beta\)のことであり、ガウスは

\[\alpha-\beta=\sqrt{17}\]を証明しました。

 同様に、\(p-1=16\)の約数として4をとると、1の17乗根は \[ \{\ \zeta^{r^{4}},\zeta^{r^{8}},\zeta^{r^{12}},\zeta^{r^{16}}\ \}\] \[ \{\ \zeta^{r},\zeta^{r^{5}},\zeta^{r^{9}},\zeta^{r^{13}}\ \}\] \[ \{\ \zeta^{r^{2}},\zeta^{r^{6}},\zeta^{r^{10}},\zeta^{r^{14}}\ \}\] \[ \{\ \zeta^{r^{3}},\zeta^{r^{7}},\zeta^{r^{11}},\zeta^{r^{15}}\ \}\]

の4つに分類できます。そして、これらの和を\(\alpha,\beta,\gamma,\delta\)とおくと、\(\alpha,\beta,\gamma,\delta\)は有理数係数の4次方程式の解となることが分かります。(有理数係数というのがポイントで、この場合も、整数係数になります。)

このように1の\(p\)乗根を\(p-1\)の約数で分類した場合のそれぞれの和をガウス周期といいます。ガウスは、ガウス周期を考えることにより、円分方程式(円分方程式の次数は\(p-1\)です。)をより次数が小さい方程式(\(p-1\)の約数)に還元できることを示したのでした。

 なぜ、ガウス周期を考えるとより小さな次数の方程式に還元できるのでしょうか?

1の\(p\)乗根と\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)の関係

 ガウスは1の\(p\)乗根を\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)と結びつけましたがこれは、決して”自然ではありません”。どのように、" 自然ではない"というと、

\[ \zeta^{r^{n}}\zeta^{r^{m}}=\zeta^{r^{n}+r^{m}}\ne\zeta^{r^{nm}}\]

ですので、1の\(p\)乗根と\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)とは群として同型ではないのです。

 ではどうしてガウスの着想はうまくいったのでしょうか。どのように考えれば\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)の群構造と1の\(p\)乗根とを関連付けることができるのか?ということですが、これは、\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)が\(p\)乗根に作用していると考えればうまくいきます。すなわち、

\(a\in (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)に対して、1の\(p\)乗根\(\zeta^{nr}\)への作用を\(\zeta^{anr}\)とすると、 つまり\[ \zeta^{nr}\longmapsto \zeta^{anr}\]と考えることにより、1の\(p\)乗根に\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)を作用させることができます。

 実際、円分拡大\(\mathbb{Q}(\zeta)/\mathbb{Q}\)のガロア群は\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)となります。そして、このように考えると1の\(p\)乗根の上記の分類は、ガロア群の部分群の作用による分類だということが分かります。つまり、ガウスはガロアより前に円分体に対するガロア群の作用を考え、その分類により円分体の中間体を生成できることに気が付いたのでした。

 このようにガウスは円分体のガロア理論を理解しており、それを用いて、上の1.2.を解きました。さらに、ガウス和を用いて平方剰余の相互法則を証明するなど、後に類体論といわれる分野の萌芽も見て取れます。次回は、この整数論的な分部の解説です。