今回は二次体における素イデアル分解について書きます。二次体は円分体の部分体になりますので、円分体における素イデアル分解を二次体に還元することができます。しかし、それには、ガロア理論+αが必要となってきますので、ここでは、直接、二次体における素イデアル分解について考察します。
二次体は当然有理数体\(\mathbb{Q}\)の拡大体ですので、今回の考察は、(有理)素数\(p\)を二次体に持ち上げたときにどのように素イデアル分解されるのか考えることにあります。この持ち上げるという感覚は意外と重要な気がします。
二次体とは
\(m\)を平方因子を持たない整数とします。「平方因子を持たない(square free)」とは1以外の平方数で割り切れないことを意味します。素因数分解したときに、素数の肩に2以上の数字が乗らないことと同値です。ここでは、\(\pm 1\)は含まないこととします。
平方因子を持たないことを仮定するのは\(\sqrt{m}\)をとるからです。平方因子を持たなければマイナスでも構いません。
このとき、\(\mathbb{Q}(\sqrt{m})\)を二次体といいます。
二次体の整数環
二次体の整数環\(\mathcal{O}=\mathcal{O}_{\mathbb{Q}(\sqrt{m})}\)は\(m\bmod{4}\)により次のように場合分けされます。
\[ \mathcal{O}= \begin{cases} \mathbb{Z}[\sqrt{m}] & (m\equiv 2,3\pmod{4})\\ \mathbb{Z}\left[\frac{1+\sqrt{m}}{2}\right] & (m\equiv 1\pmod{4}) \end{cases}\]
初等整数論のテキストでは、\(\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]\)や\(\mathbb{Z}[\sqrt{2}]\)が整数環の例として最初に説明されていることが多いため、2次体の整数環は\(\mathbb{Z}[\sqrt{m}]\)になるものと予想しながら読み進めると、実際には上のように\(m\pmod{4}\)による場合分けが必要となりがっかりすることになります。なぜ、上のような場合分けが必要となるのか、全て\(\mathbb{Z}[\sqrt{m}]\)が整数環である方が「きれい」な気がするところです。
しかし、考えてみれば、常に\(\mathbb{Z}[\sqrt{m}]\)が整数環であるとすると、1の3乗根\(\zeta_{3}=\frac{1+\sqrt{-3}}{2}\)が代数的整数でなくなってしまい、円分体\(\mathbb{Q}(\zeta_{n})\)の整数環が\(\mathbb{Z}[\zeta_{n}]\)でなくなってしまいます。神様は、二次体より円分体により本質的・統一的な解釈を与えたと考えて、この場合分けは我慢しましょう。
\(m\equiv 2,3\pmod{4}\)のとき
\(m\equiv 2,3\pmod{4}\)のとき二次体\(\mathbb(\sqrt{m})\)の整数環\(\mathcal{O}\)は\(\mathbb{Z}[\sqrt{m}]\)となります。そこで、\(\sqrt{m}\)の最少多項式として\(f(x)=x^{2}-m\)をとると、前回説明した3つの「条件」を満たしていることが分かります。
したがって、\(f(x)\)の\(\bmod{p}\)における因数分解と\(p\)の整数環\(\mathcal{O}\)の素イデアル分解が対応することが分かります。 そこで、\(f(x)=x^{2}-m\)の\(\bmod{p}\)での因数分解を考えてみます。
\(p\)が\(m\)の約数のとき
\(p\)が\(m\)の約数のとき\(f(x)=x^{2}-m\equiv x^{2}\pmod{p}\)ですので、\(f(x)\equiv x^{2}\pmod{p}\)が\(\bmod{p}\)における因数分解となります。このとき\(f(x)\pmod{p}\)は重解をもちます。
これに対応する素イデアル分解を考えます。前回のクンマーの定理より\(\mathfrak{p}=(p,\sqrt{m})\)が素イデアルとなり
\[p\mathcal{O}=\mathfrak{p}^{2}\]
となります。このように、\(m\)の約数たる素数は分岐することがわかります。ここで、分岐するとは素イデアルのn乗(n:2以上)で割り切れる場合を指します。これは、多項式の因数分解の言葉で言い換えると、多項式が\(\bmod{p}\)で重解を持つ場合に対応します。
\(p=2\)が\(m\)の約数でないとき
\(p=2\)が\(m\)の約数でないとき、\(m\equiv 1\pmod{2}\)ですので\(f(x)=x^{2}-m\equiv x^{2}-1 \pmod{2}\equiv (x-1)^{2}\pmod{2}\)が\(f(x)\)の\(\bmod{2}\)での因数分解となります。この場合もやはり重解をもちます。
これに対応する素イデアル分解を考えると、\(\mathfrak{p}=(2,\sqrt{m}-1)\)が\(\mathcal{O}\)の素イデアルとなり \[2\mathcal{O}=\mathfrak{p}^{2}\]
となります。この場合も分岐することがわかりました。
以上より、\(m\)の約数と\(2\)は分岐することが分かりましたが、下記の結果から、分岐する素数はこの場合だけだとわかります。つまり、
\[ p{\text が分岐する}\Longleftrightarrow p{\text が}2m{\text を割り切る}\]
ことが分かります。これは、(若干人為的になりますが、)\(f(x)=x^{2}-m\)の判別式\(\Delta=4m\)を使うと、
\[ p{\text が分岐する}\Longleftrightarrow p{\text が判別式}\Delta=4m{\text を割り切る}\]
と変形することができます。突如、判別式を考えたのは、若干人為的な感じがしますが、(2次体とは限らない)一般の代数体でも成り立つからです。
\(p\ne 2\)が\(m\)の約数でないとき
\(p\ne 2\)が\(m\)の約数でないとき平方剰余の定義より
\[ f(x)=x^{2}-m\equiv 0 \pmod{p}{\textが解がある}\Longleftrightarrow \left(\frac{m}{p}\right)=1\]
このとき\(f(x)\)は重根を持たないことが分かります。(形式的微分を考えることにより分かります。)
したがって、クンマーの定理を用いると \[\left(\frac{m}{p}\right)=1\Longleftrightarrow p\mathcal{O}=\mathfrak{p}\mathfrak{p}^{'},\ \mathfrak{p}\neq\mathfrak{p}^{'}\]
です。このとき、\(p\)は完全分解しています。
また、この逆を考えると
\[\left(\frac{m}{p}\right)=-1\Longleftrightarrow p\mathcal{O}{\text が}\mathcal{O}{\text の素イデアル}\]
です。このように、\(p\)を持ち上げた整数環\(\mathcal{O}\)でも素イデアルである場合惰性するといいます。
以上をまとめると
\[\begin{align} p{\text が判別式}\Delta=4m{\text を割り切る} &\Longleftrightarrow p{\text が分岐する}\\ \left(\frac{m}{p}\right)=1&\Longleftrightarrow p{\textが完全分解する} \\ \left(\frac{m}{p}\right)=-1&\Longleftrightarrow p{\textが惰性する} \end{align}\]
ここまで、\(p\)を二次体\(\mathbb{Q}(\sqrt{m})\)に持ち上げた場合、\(p\)がどのように分解されるのか見てきましたが、ここまでの考察では”modの交換"は起こっていません。次回、上記に平方剰余の相互法則を適用することにより、modが交換されることを見てみましょう。