美的数学のすすめ

初等整数論のうち、平方剰余の相互法則の意味を当面の目標としたいと思います。ゆくゆくは、ガウス和、円分体論まで到達したいです。

平方剰余の相互法則(その2)

前回、平方剰余の相互法則についてご紹介しました。今回は、平方剰余の相互法則が、なぜ驚くべき結果なのか、その意味について考えてみたいと思います。

biteki-math.hatenablog.com

 前回も記載したとおり、平方剰余の相互法則の驚くべき点は、\(\bmod{p}\)の世界と\(\bmod{q}\)の世界の関係を示している点です。しかも、対照的でシンプルに。

 おそらく、これが、\(\bmod{p}\)の世界と\(\bmod{q}\)の世界の関係を示した史上初めての定理だと思います。

平方剰余の相互法則(再掲)

 平方剰余の相互法則を再掲しておきます。

(平方剰余の相互法則)

 \(p,q\)を異なる2つの奇素数とするとき、次が成立する。 \[\left(\frac{q}{p}\right)\left(\frac{p}{q}\right)=(-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}}\]

\(\bmod{p}\)の世界と\(\bmod{q}\)の世界の関係

 平方剰余の相互法則をもし知らなかったのであれば、到底、\(\bmod{p}\)の世界と\(\bmod{q}\)の世界に関係があるようには思いません。これは、もちろん感覚的なことなのですが、それは、例えば、次のようなことから感じ取ることができます。

中国剰余定理

 \(p,q\)を異なる素数とするとき、任意の整数\(a,b\)に対し、連立合同式 \[ x\equiv a\pmod{p}\] \[ x\equiv b\pmod{q}\] は常に解を持ちます。(中国剰余定理(Chinese reminder theorem))

これは、\(\bmod{p}\)の世界において\(a\pmod{p}\)をどのように定めたとしても、\(\bmod{q}\)の世界には何ら影響を及ぼさず、任意の\(b\)に対して\(b\pmod{q}\)が設定できることを意味しています。つまり、この中国剰余定理は、\(\bmod{p}\)の世界と\(\bmod{q}\)の世界とが、関連がなさそうなことを示唆しています。

(例) 例えば、\(p=3,q=5\)とし、\(a=1,b=2\)とします。すると、合同式 \[x\equiv 1\pmod{3}\] を満たす\(x\)とは、3で割ると1余る数のことです。

一方、合同式 \[x\equiv 2\pmod{5}\] を満たす\(x\)は、5で割ると2余る数のことです。

そして、中国剰余定理は、このどちらも満たす\(x\)が存在すること、つまり、3で割ると1余り、5で割ると2余る数が存在することを示しています。

実際に、このような数は、\(x=7,22,37,\cdots\)と無数に存在します。

 この例から分かるとおり、「3で割ると1余る」という条件は、「5で割ると2余る」という条件に何らの制約を与えないことが分かります。つまり、「3で割っると1余る数」であっても、5で割った場合の余りが何になるのかは全くわからないことを意味しています。これは、\(\bmod{3}\)の世界と\(\bmod{5}\)の世界は何ら関係がないこと、独立していること、を意味しているように思えます。(なお、ここでの「独立」とは感覚的な意味で用いており、数学用語としては用いていません。)

 中国剰余定理は、\(p,q\)が素数でなくとも互いに素であれば成立することに注意しましょう。これに対して、平方剰余の相互法則が素数の場合にしか成り立ちません。その意味で、中国剰余法則は、\(\bmod{p}\)の世界と\(\bmod{q}\)の世界とのラフな関係を示しているに過ぎないとも考えられます。

平方剰余の相互法則

 平方剰余の相互法則は、\(\bmod{p}\)の世界と\(\bmod{q}\)の世界に関係があることを示しています。

 平方剰余の相互法則は、ガウスは7つの異なる方法で証明しました。これら7つの証明は、どれをとっても不思議な証明です。しかし、ここでは、ガウスの証明を紹介するのではなく、円分体論の中で平方剰余の相互法則がどのように理解されるのか説明したいと思います。次回は、円分体論の中での平方剰余の相互法則です。