美的数学のすすめ

初等整数論のうち、平方剰余の相互法則の意味を当面の目標としたいと思います。ゆくゆくは、ガウス和、円分体論まで到達したいです。

円分多項式以外のmod pにおける因数分解

本業が忙しくて、なかなかブログの更新できません。

前回、円分多項式\(\Phi_{q}(x)\)を\(\bmod{p}\)で因数分解をしました。

biteki-math.hatenablog.com

これによって、

円分多項式\(\Phi_{q}(x)\)の\(\bmod{p}\)での因数分解


\(p\)の\( (\mathbb{Z}/q\mathbb{Z})^{\times}\)の中での位数

が関連していることがわかりました。

 このように、円分多項式の世界では、なぜか、modが入れ替わることが分かりました。

 こんなに不思議で美しいことはそうそうあるわけではありません。今回は、円分多項式がいかに特殊なのか、円分多項式以外では、このようにきれいにはならないということを見てみます。

 円分多項式以外の多項式の例として、\(x^{3}-2\)をとります。\(x^{3}-2\)を\(\bmod{p}\)での因数分解した場合にどのような法則があるのかを考えましょう。これによって、\(x^{3}-2\)には、円分多項式の場合のような美しい法則はないことを見てみます。

しかし、最後に、オイラーによるどんでん返しも待っています。

  f:id:TSKi:20150426221353j:plain

 オイラー(Euler)

 

\(x^{3}-2\)の\(\bmod{p}\)での因数分解

 sageを使い\(x^{3}-2\)を\(\bmod{p}\)で因数分解しました。その結果は、下の表のとおりです。

素数 \(\bmod{3}\) \( x^{3}-2 \)の因数分解
\( 3 \) \( 0 \) \( (x + 1)^{3} \)
\( 5 \) \( 2 \) \( (x + 2) (x^{2} + 3 x + 4) \)
\( 7 \) \( 1 \) \( (x^{3} + 5) \)
\( 11 \) \( 2 \) \( (x + 4) (x^{2} + 7 x + 5) \)
\( 13 \) \( 1 \) \( (x^{3} + 11) \)
\( 17 \) \( 2 \) \( (x + 9) (x^{2} + 8 x + 13) \)
\( 19 \) \( 1 \) \( (x^{3} + 17) \)
\( 23 \) \( 2 \) \( (x + 7) (x^{2} + 16 x + 3) \)
\( 29 \) \( 2 \) \( (x + 3) (x^{2} + 26 x + 9) \)
\( 31 \) \( 1 \) \( (x + 11) (x + 24) (x + 27) \)
\( 37 \) \( 1 \) \( (x^{3} + 35) \)
\( 41 \) \( 2 \) \( (x + 36) (x^{2} + 5 x + 25) \)
\( 43 \) \( 1 \) \( (x + 9) (x + 11) (x + 23) \)
\( 47 \) \( 2 \) \( (x + 26) (x^{2} + 21 x + 18) \)
\( 53 \) \( 2 \) \( (x + 35) (x^{2} + 18 x + 6) \)
\( 59 \) \( 2 \) \( (x + 21) (x^{2} + 38 x + 28) \)
\( 61 \) \( 1 \) \( (x^{3} + 59) \)
\( 67 \) \( 1 \) \( (x^{3} + 65) \)
\( 71 \) \( 2 \) \( (x + 22) (x^{2} + 49 x + 58) \)
\( 73 \) \( 1 \) \( (x^{3} + 71) \)
\( 79 \) \( 1 \) \( (x^{3} + 77) \)
\( 83 \) \( 2 \) \( (x + 33) (x^{2} + 50 x + 10) \)
\( 89 \) \( 2 \) \( (x + 73) (x^{2} + 16 x + 78) \)
\( 97 \) \( 1 \) \( (x^{3} + 95) \)
\( 101 \) \( 2 \) \( (x + 75) (x^{2} + 26 x + 70) \)

 これを見ると\(p\equiv2\pmod{3}\)のときは例外なく1次式×2次式と因数分解されることが分かります。

 しかし\(p\equiv 1\pmod{3}\)のときは、ほとんどが既約(因数分解できない)ですが、一部に例外があります。青字の\(\ p=31\ \)と\(\ p=43\ \)だけ、3つの一次式に分解していますつまり、完全分解しています。

 これだけでは、事例が少なすぎるので、\(p\equiv 1\pmod{3}\)に限定をして、もう少し大きな素数の場合を見てみます。\(p\)が100から200までの場合は次の表のとおりです。

素数 \(\bmod{3}\) \( x^{3}-2 \)の因数分解
\( 103 \) \( 1 \) \( (x^{3} + 101) \)
\( 109 \) \( 1 \) \( (x + 6) (x + 51) (x + 52) \)
\( 127 \) \( 1 \) \( (x + 5) (x + 27) (x + 95) \)
\( 139 \) \( 1 \) \( (x^{3} + 137) \)
\( 151 \) \( 1 \) \( (x^{3} + 149) \)
\( 157 \) \( 1 \) \( (x + 21) (x + 41) (x + 95) \)
\( 163 \) \( 1 \) \( (x^{3} + 161) \)
\( 181 \) \( 1 \) \( (x^{3} + 179) \)
\( 193 \) \( 1 \) \( (x^{3} + 191) \)
\( 199 \) \( 1 \) \( (x^{3} + 197) \)

 やはり、いくつか例外があります。青字部分の\(\ p=109,127,157\ \)のときは完全分解しています。

 さて、この完全分解をする素数\(\ p=31,43,109,127,157\ \)に何か法則はあるでしょうか?なかなか、よい法則は見つかりそうもありません。

 このように、\(x^{3}-2\)を\(\bmod{p}\)で因数分解した場合は、円分多項式の場合のような法則がなさそうだと分かります。

 "円分多項式の場合のような法則"とは、ある自然数\(N\)があって、\(p\)を\(\bmod{N}\)したときに属する剰余類によって、因数分解の法則が記述できる場合を言います。

 類体論よりそのような場合はアーベル拡大になることが知られています。しかし、そもそも、\(\mathbb{Q}(\sqrt[3]{3})\)は\(\mathbb{Q}\)上ガロア拡大でありませんし、ガロア拡大になるようにすべての解を添加した\(\mathbb{Q}(\sqrt[3]{3},\sqrt[3]{3}\omega)=\mathbb{Q}(\sqrt[3]{3},\omega)\)は\(\mathbb{Q}\)上アーベル拡大ではありません(ここで、\(\omega\)は1の3乗根)。

 したがって、類体論より\(x^{3}-2\)には円分多項式の場合のような、きれいな分解法則がないことがわかります。

 

\(\mathbb{Q}(\sqrt[3]{3},\omega)\)は\(\mathbb{Q}\)上アーベル拡大ではありませんが、\(\mathbb{Q}(\omega)\)上であればアーベル拡大になります。したがって、\(\mathbb{Q}(\omega)\)上であれば類体論が使えます。そのため、立法剰余の相互法則は、\(\mathbb{Q}(\omega)\)上で考える必要があります。

 

 上の表で\(p\equiv2 \pmod{3}\)のときは、1次式×2次式に因数分解しました。このように因数分解した結果の次数がバラバラになるのはなぜでしょうか?このようなことは円分多項式ではおこりませんでした。

 実は、これは、\(\mathbb{Q}(\sqrt[3]{3})\)が\(\mathbb{Q}\)上ガロア拡大でないことに対応しています。

 ガロア拡大でないため、\(x^{3}-2=0\)の全ての解が\(\mathbb{Q}(\sqrt[3]{3})\)に含まれていませんが、これを\(\bmod{p}\)の世界でみると、\(x^{3}-2\equiv0\pmod{p}\)の解の1つは\( (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)にあり、残りの2つはここにないというような形で、つまり\(\bmod{p}\)した際の、最小多項式の次数が異なるという形で現れていると考えることができます。

オイラーによる驚くべき結果

 このように、\(x^{3}-2\)を\(\bmod{p}\)で因数分解した場合は、円分多項式の場合のような法則がないことが分かりました。しかし、オイラーは次の驚くべき法則を予想しました。これは、ガウスによって証明されています。

(オイラー、ガウス)

\(x^{3}-2\text{が}\bmod{p}\text{で完全分解する}\Longleftrightarrow \text{ある自然数}\ x,y\ \text{が存在して}p=x^{2}+27y^{2}\)

 実際、 \[ \begin{align} 31 &= 4+27 \\ 43 &= 16+27 \\ 109 &= 1+27\times4 \\ 127 &= 100+27 \\ 157 & =49+ 27\times4 \end{align} \]

で成り立っています。

 オイラーはこの他\(x^{4}-2\)の場合などに、同じような法則をたくさん発見しています。

 みなさんも、\(\bmod{p}\)で多項式を因数分解をして新たな法則を発見してみましょう!

sageの使い方

 \(x^{4}-2\)の因数分解もここで説明しようと思いましたが、むしろ、sageの使い方を書いた方が有用だと思い、簡単に書いてみました。

 sageは、インタネット上で使えます。たとえば、

https://cloud.sagemath.com/

にアクセスします。最初は、IDの登録を求められると思いますが、一度登録をすると計算履歴等が保存されるため便利です。

 ログイン後、新しいプロジェクトを作成するなどの手続きが必要かもしれません。計算をさせる画面までたどり着いたら、下記の命令を打ち込んで「Run」すると、3以上100以下の素数に関し、\(x^{3}-2\)の\(\bmod{p}\)での因数分解の結果を排出してくれます。6行目を計算させたい多項式に変更することで、いろいろな多項式で試すことができます。皆さんも、是非、やってみてください。第2のオイラーになりましょう!

p=2
while p<100: 
    p=next_prime(p)
    F=FiniteField(p)
    R.<x>=F[]
    f=factor(x^3-2)
    print p,f