多項式の判別式
前回、前々回と\(n=7,13\)の場合のガウス周期とガウス周期を解とする方程式を求めました。また、その方程式の判別式には、一定の法則がありそうだということも分かりました。今回は、そのうち、円分多項式の判別式について考えます。円分多項式は、1周期を解とする方程式と考えることもできます。
多項式の判別式の定義
\(n\)次多項式 \(f(x)= x^{n}+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots a_{2}x^{2}+a_{1}x+a_{0}\)を考えます。定義を簡潔にするため、最高次の係数は1とします。係数の範囲には特段の制限はありませんが、例えば、整数係数を考えます。
このとき、方程式\(f(x)=0\)の解を\(\alpha_{1}, \alpha_{2},\cdots, \alpha_{n}\)とおきます。(なお、適切な代数閉体(整数係数を例にすると複素数体)の中で必ず、(重複も含めて)\(n\)個の解があります。)
このとき、多項式\(f(x)\)の判別式(discriminant)\(d(f)\)を次のように定義します。
\[ \begin{align} d(f)&=( \alpha_{1}-\alpha_{2})^{2}( \alpha_{1}-\alpha_{3})^{2}\cdots( \alpha_{n-1}-\alpha_{n})^{2}\\ &=\prod_{i<j}( \alpha_{i}-\alpha_{j})^{2} \end{align}\] また、1次式の判別式は常に1と定義します。
整数論では、\( f(x)\equiv 0\pmod{p}\)がどのような素数\(p\)で重根を持つかが重要となりますが、上の定義から、このような素数\(p\)は判別式を割り切る\(p\)であることが、予想できます。なお、より一般的には、「多項式の判別式」より「代数体の判別式」が重要です。
上記の積は、\(i<j\)の場合の全ての\( ( \alpha_{i}-\alpha_{j})^{2}\)の積となっていますが、二乗をしているため、差をとる順番には依存せず、\(\alpha_{1}, \alpha_{2},\cdots, \alpha_{n}\)の順序の取り方によらずに定まります。
また、\( ( \alpha_{i}-\alpha_{j})^{2}=-( \alpha_{i}-\alpha_{j})( \alpha_{j}-\alpha_{i})\)であることを使い、積をとる範囲を全ての\(i,j(i\ne j)\)とすると、次のように変形できます。
\[d(f)=(-1)^{\frac{n(n-1)}{2}}\prod_{i\ne j}( \alpha_{i}-\alpha_{j}) \]
このように変形しておくと、\(i,j\)の対称式であることが明確であるので何かと使い安いです。
このように、判別式は、\(\alpha_{1}, \alpha_{2},\cdots, \alpha_{n}\)の対称式となっています。したがって、解と係数の関係を用いることにより、多項式の係数\( a_{n-1}, a_{n-2},\cdots a_{1},a_{0}\)の式として表すことができます。ただし、多項式の係数を用いて判別式を記載することは、次数が少し大きくなっただけでも難しくなります。
例 2次式\(f(x)=ax^{2}+bx+c\)の判別式は、\(d(f)=b^{2}-4ac\)となり、よく知られている判別式となります。(ただし、上の定義は最高次数を1と限定しているため、厳密には、最高次数が1でないときにまで定義を拡張する必要があります。)
例 3次式\(f(x)=ax^{3}+ bx^{2}+cx+d\)の判別式は、\(d(f)=b^{2}c^{2}-4ac^{3}-4b^{3}d-27a^{2}d^{2}+18abcd\)となります。特に\(a=1,b=0\)の場合は、\(-4c^{3}-27d^{2}\)となります。しかし、この簡単な場合ですら、判別式の定義から導くことは大変です。
このように、3次多項式でも判別式を実際に計算するのは大変ですし、4次以上になるとほとんど計算は不可能になります。しかし、sageをはじめとしてほとんどの数式処理ソフトは、判別式を求めるアルゴリズムを持っている(と思う)ので、数式処理ソフトを用いれば、一瞬で求めることができます。
判別式の変形(微分を用いた形)
上に定義した、多項式の判別式はいくつかの形に変形できます。
\[ f(x)=(x-\alpha_{1})(x-\alpha_{2})\cdots(x-\alpha_{n})\]
ですので、両辺を微分をして\(x=\alpha_{1}\)を代入すると
\[ f'(\alpha_{1})=(\alpha_{1}-\alpha_{2})(\alpha_{1}-\alpha_{3})\cdots(\alpha_{1}-\alpha_{n}) \]
と、\( (\alpha_{1}-\alpha_{j}),j\ne 1\)の積になります。
同様に、両辺を微分をして\(x=\alpha_{2}\)を代入すると
\[ f'(\alpha_{2})=(\alpha_{2}-\alpha_{1})(\alpha_{2}-\alpha_{3})\cdots(\alpha_{2}-\alpha_{n}) \]
と、\( (\alpha_{2}-\alpha_{j}),j\ne 2\)の積になります。
これらを用いると、判別式は微分を用いて次のように変形できます。
\[ \begin{align} d(f)&=(-1)^{\frac{n(n-1)}{2}}\prod_{i\ne j}( \alpha_{i}-\alpha_{j}) \\ &=(-1)^{\frac{n(n-1)}{2}}f'(\alpha_{1})f'(\alpha_{2})\cdots f'(\alpha_{n}) \end{align}\]
多項式を微分しているため、多項式の係数は実数又は複素数である必要がありそうですが、形式的に微分を\( (x^{n})'=nx^{n-1}\)と定義することにより、それ以外の体においても同様の議論が可能となります。
円分多項式の判別式
微分を用いた判別式の変形を用いて、円分多項式\(\Phi_{p}(x)=x^{p-1}+x^{p-2}+\cdots+x+1\)の 判別式を求めることができます。(\(p\)は素数としています。)以前、計算したとおり、
p=7の場合の円分多項式の判別式は\(-7^{5}\)になりました。
\(f\) | \(f\)周期 | \(f\)周期を解とする方程式 | 判別式 |
---|---|---|---|
1 | \(\zeta,\ \ \zeta^{2},\ \ \cdots\ \ ,\zeta^{6}\) | \(\Phi(x)\) | \(-7^{5}\) |
また、\(p=13\)の場合の円分多項式の判別式は\(13^{11}\)となりました。
\(f\) | \(f\)周期 | \(f\)周期を解とする方程式 | 判別式 |
---|---|---|---|
1 | \(\zeta,\ \ \zeta^{2},\ \ \cdots\ \ ,\zeta^{12}\) | \(\Phi(x)\) | \(13^{11}\) |
このことから、円分多項式の判別式は、\( (-1)^{\frac{p-1}{2}}p^{p-2}\)になると予想できます。
証明
一般的に、\(p\)を奇素数とすると、円分多項式の定義より、
\[ (x-1)\Phi_{p}(x)=x^{p}-1 \] ですので、両辺を微分すると \[ \Phi_{p}(x)+(x-1)\Phi_{p}'(x)=px^{p-1} \]
\(x=\zeta_{p}^{i}\)(1のp乗根)を代入すると、\( \Phi_{p}(\zeta_{p}^{i})=0\)であることより
\[ (\zeta_{p}^{i}-1)\Phi_{p}'(\zeta_{p}^{i})=p\zeta_{p}^{i(p-1)} \tag{1}\]
これを全ての\(i\ (1\le i \le p-1)\)についての積をとる必要があります。
(i) 最初に\( (\zeta_{p}^{i}-1)\)の積を考えますが、ここは若干トリッキーです。
\( (\zeta_{p}^{i}-1)\)を解とする方程式を探したうえで、解と係数の関係を用います。
\[f(x)=\Phi_{p}(x+1) \] とおくと、\( (\zeta_{p}^{i}-1)\)は、\(f(x)=0\)の解になっています。 そして、 \[\begin{align} f(x)&=\Phi_{p}(x+1) \\ &=\frac{(x+1)^{p}-1}{(x+1)-1}\\ &=\frac{(x+1)^{p}-1}{x} \end{align}\] です。この分子を2項展開すると、\(x^{p}+px^{p-1}+\cdots+px+1-1\)となりますので、\( x\)で割った後の\(f(x)\)の定数項は\(p\)です。
したがって、解と係数の関係を用いると \[ (\zeta_{p}-1)(\zeta_{p}^{2}-1)\cdots (\zeta_{p}^{p-1}-1)=p\] となります。
今回の証明と離れても、この式自体が重要な意味を持っています。
素数\(p\)は、代数体\(\mathbb{Q}(\zeta_{p})\)の中で、左辺のように分解されることを意味しています。 つまり、素数\(p\)は、代数体\(\mathbb{Q}(\zeta_{p})\)の中では、素数ではない(正確には、素イデアルを生成しない)ことを意味しています。 更に、左辺にある\(p-1\)個の各項は、同じイデアルを生成することが分かります。(例えば、\( (\zeta_{p}-1)(\zeta_{p}+1)=\zeta_{p}^{2}-1\)です。) これにより、素数\(p\)は、代数体\(\mathbb{Q}(\zeta_{p})\)の中では、\( (p)=(\zeta_{p}-1)^{p-1}\)(両辺ともイデアルとして)と分解されることが分かります。(実際には、これが素イデアル分解となっています。)
これを、多項式の言葉に翻訳すると、代数体\(\mathbb{Q}(\zeta_{p})\)を定義する円分多項式\(\Phi_{p}(x)\)は、\(\bmod{p}\)で上のイデアル分解と同様に分解することを意味しています。
実際、\[\Phi_{p}(x)=x^{p-1}+x^{p-2}+\cdots+x+1\equiv (x-1)^{p-1} \pmod{p} \] がそれに対応します。
(ii)次に、式(1)の右辺を全ての\(i\ (1\le i \le p-1)\)についての積をとります。
\( \zeta_{p}^{i}\)の積は(円分多項式に関する解と係数の関係を用いることにより)\( (-1)^{p-1}\)になることに注意すると
\[ \prod_{i=1}^{p-1}p\zeta_{p}^{i(p-1)} =p^{p-1}(-1)^{2(p-1)}=p^{p-1}\]
(iii)最後に、全ての\(i\ (1\le i \le p-1)\)についての式(1)の積をとります。
全ての\(i\ (1\le i \le p-1)\)についての式(1)の積をとると、\(d(\Phi_{p})=(-1)^{\frac{(p-1)(p-2)}{2}}\Phi_{p}'(\zeta_{p})\Phi_{p}'(\zeta_{p}^{2})\cdots \Phi_{p}'(\zeta_{p}^{p-1})\)であることに注意すると
\[ p(-1)^{\frac{(p-1)(p-2)}{2}}d(\Phi_{p})=p^{p-1}\]
\(p-2\)は常に奇数となることから、これを変形すると \[ d(\Phi_{p})=(-1)^{\frac{p-1}{2}}p^{p-2} \]
以上より、次が示せました。
\(p\)が奇素数のとき、円分多項式の判別式は \[ d(\Phi_{p})=(-1)^{\frac{p-1}{2}}p^{p-2} \]
ガウス周期の判別式
前回、前々回と解説したガウス周期が満たす方程式の判別式表を再掲します。
\(n=7\)の場合のガウス周期、判別式です。
\(f\) | \(f\)周期 | \(f\)周期を解とする方程式 | 判別式 |
---|---|---|---|
1 | \(\zeta,\ \ \zeta^{2},\ \ \cdots\ \ ,\zeta^{6}\) | \(\Phi(x)\) | \(-7^{5}\) |
2 | \(\zeta+\zeta^{6},\ \zeta^{2}+\zeta^{5},\ \zeta^{3}+\zeta^{4}\) | \(x^{3}+x^{2}-2x-1\) | \(7^{2}\) |
3 | \(\zeta+\zeta^{2}+\zeta^{4},\ \ \zeta^{3}+\zeta^{5}+\zeta^{6}\) | \(x^{2}+x+2\) | \(-7\) |
6 | \(\zeta+\zeta^{2}+\zeta^{3}+\cdots+\zeta^{6}=-1\) | \(x+1\) | 1 |
\(n=13\)の場合のガウス周期、判別式です。
\(f\) | \(f\)周期 | \(f\)周期を解とする方程式 | 判別式 |
---|---|---|---|
1 | \(\zeta,\ \ \zeta^{2},\ \ \cdots\ \ ,\zeta^{12}\) | \(\Phi(x)\) | \(13^{11}\) |
2 | \(\zeta+\zeta^{12},\ \zeta^{2}+\zeta^{11},\ \zeta^{3}+\zeta^{10}\) \(\zeta^{4}+\zeta^{9},\zeta^{5}+\zeta^{8},\ \zeta^{6}+\zeta^{7} \) |
\(x^{6}+x^{5}-5x^{4}-4x^{3}+6x^{2}+3x-1\) | \(13^{5}\) |
3 | \(\zeta^{3}+\zeta^{9}+\zeta,\ \zeta^{4}+\zeta^{12}+\zeta^{10}\) \( \zeta^{8}+\zeta^{11}+\zeta^{7},\ \zeta^{2}+\zeta^{6}+\zeta^{5}\) |
\(x^{4}+x^{3}+2x^{2}-4x+3\) | \(3^{2}13^{3}\) |
4 | \(\zeta^{8}+\zeta^{12}+\zeta^{5}+\zeta,\zeta^{2}+\zeta^{3}+\zeta^{11}+\zeta^{10}\) \(\zeta^{4}+\zeta^{6}+\zeta^{9}+\zeta^{7}\) |
\(x^{3}+x^{2}-4x+1\) | \(13^{2}\) |
6 | \(\zeta^{4}+\zeta^{3}+\zeta^{12}+\zeta^{9}+\zeta^{10}+\zeta\) \(\zeta^{2}+\zeta^{8}+\zeta^{6}+\zeta^{11}+\zeta^{5}+\zeta^{7}\) |
\(x^{2}+x-3\) | 13 |
12 | \(\zeta+\zeta^{2}+\cdots+\zeta^{12}=-1\) | \(x+1\) | 1 |
上の表のうちの「1周期」の部分は、確かに予想通りであることが分かりました。では、それ以外の周期については、どうでしょうか?特に、\(n=13\)の場合の3周期は他と違う挙動を示していますが、これはなぜでしょうか?それを説明するには、「代数体の判別式」を導入する必要がありそうです。その前提として、多項式の判別式を行列式の形にしておきます。
多項式の判別式の変形(行列式として)
多項式の判別式の定義は、上記のような解の差積の二乗とされていますが、これは、次のように、行列式で書き換えることが可能です。
行列\(A\)を \(A=\begin{pmatrix} 1 &1 &\cdots &1 \\ \alpha_{1} &\alpha_{2} &\cdots &\alpha_{n} \\ \alpha^{2}_{1} &\alpha^{2}_{2} &\cdots &\alpha^{2}_{n} \\ \alpha^{3}_{1} &\alpha^{3}_{2} &\cdots &\alpha^{3}_{n} \\ &\vdots & &\\ \alpha^{n-1}_{1} &\alpha^{n-1}_{2} &\cdots &\alpha^{ n-1}_{n} \end{pmatrix} \)
とおくと、Vandermondeの行列式より
\[ det(A)=\pm (\alpha_{1}-\alpha_{2}) ( \alpha_{1}-\alpha_{3})\cdots( \alpha_{n-1}-\alpha_{n}) \]
です。(もちろん、右辺の符合は一意に定まりますが、いずれにしても二乗をするため、ここでは問題にしません。)
よって、 \[ d(f)=det(A)^{2}=det(A^{2}) \]
このように、多項式の判別式は、ある行列の行列式として表すことができます。この行列式での表示は、後に確認する代数体の判別式との関連が連想されます。
Vandermondeの行列式を初めてみたときは、こんな、仰々しい行列の行列式を求めることがあるのか?と思いましたが、本当にVandermondeの行列式は偉大です。

- 作者: 小野孝
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