美的数学のすすめ

初等整数論のうち、平方剰余の相互法則の意味を当面の目標としたいと思います。ゆくゆくは、ガウス和、円分体論まで到達したいです。

大学への数学

 もう20年以上も昔、高校生だったころ、「大学への数学」という月刊誌を愛読していた。それこそ、一文字も読み漏らすまいと、1ページ目から最終ページまで穴が開くほど眺めていた。当時、数学は好きであったが、物理の方がもっと好きだった。だっから、自分がもし大学に行くことになったら物理を勉強したいと朧げながらに考え出していた。しかし、「大学への数学」を読んでからは、もはや物理は問題ではなく、数学以外には考えられなくなってしまった。「大学への数学」とは自分にとってはそれほど大きな影響を及ぼした雑誌である。

 「大学への数学」には、名前ははっきりとは覚えていないが、確か「今月の問題」というような題名のコーナーがあった。そこには、大学受験レベルをはるかに超えた問題が毎月1問掲載されており、読者は自分の回答を応募することができた。応募者のうち、正解者は全員氏名が掲載された。特に、その中でも優秀な回答は、回答も掲載された。正解者は毎月数名から数十名という場合がほとんどで、中には、正解者がだれもいない月もあったと思う。そのような問題でも、全国には秀才がいるもので、高校2年生で、何度も名前が掲載されているものがいた。そのようなものの一人がS君であった。後に、大学に入り、同じ学年の同じ学部にそのS君がいることを知り驚いたが、S君にはそのことを知らせることはなかった。S君とは、私が大学を卒業してから音信はないが、大学でも優秀であったため、さぞや優秀な数学者となっていることであろう!

 さて、「今月の問題」はそんな問題ばかりだったので、ほとんど全く歯が立たなかったし、たまにできたと思って応募しても、名前が載ることはほとんどなかった。しかし、希に、手が出せる問題も出題された。そんな時は、ここぞとばかりに、なんとか力技でも用いて応募した。そんな問題の一つが次のようなものだった。

 \(n\)を2から8までの自然数とするとき、次の\(x\)の多項式は、いくつの整数係数多項式に因数分解できるか。余裕がある者は、\(n\)が9以上の場合も考察せよ。 \[ x^{n}-1 \]

 これが円周等分多項式とのはじめての出会いだった。もちろん、そのときはそんな名前は知らなかったし、その背後に円分体論や類体論のような美しい理論が隠れていることはなおさら知らなかった。

 因数分解であれば特別なテクニックも特別なヒラメキがなくてもなんとくなるんじゃないかというのが、当時高校生だった、自分の素直な感想だっと思う。

\(n=4\)まで

 すぐにとりかかった。\(n=4\)まではほとんど問題ない。

\[ \begin{align} x^{2}-1 &= (x-1)(x+1) \\ \\ x^{3}-1 &=(x-1)(x^{2}+x+1)\\ \\ x^{4}-1 &=(x^{2}-1)(x^{2}+1)\\ &=(x-1)(x+1)(x^{2}+1) \end{align} \]

\(n=5\)の場合

\(n=5\)の場合は、

\[ x^{5}-1=(x-1)(x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1) \]

と因数分解できることまでは問題ない。後は、\( x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1 \)が既約(これ以上因数分解できない)かを示す必要があった。

\(x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1\)の既約性

 \(x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1\)が仮に因数分解可能であるとすると、(1次式)×(3次式)か(2次式)×(2次式)であるが、\(x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1=0\)が整数解を持たないことはすぐに分かるので、2次式×2次式に分解できないことを示せばよい。

 そこで、 \[ x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1=(x^{2}+ax\pm 1)(x^{2}+bx\pm 1)\] とおいて、このような\(a,b\)が整数には存在しないことを示せばよい。これは難しくなく、高校生のときも、このように解いたはずだ。

1の5乗根を使った証明

 しかし、この方法は、\(n\)が大きい場合への応用が効かない。(わたしは、高校生のころ、この方法で、\(n=7\)の場合を解こうとしたので、この方法がいかに\(n=7\)のとき無力かよく知っている!!)

 そこで、回りくどいがここでは、 1の5乗根を使って、別の方法で解いてみる。

 \( \zeta=\exp(\frac{2\pi i}{5})\)とすると、

\(x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1=0\)の4つの解は、\(\zeta,\zeta^{2},\zeta^{3},\zeta^{4}\)となる。 そして、仮に、 \[x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1=f(x)g(x)\] (\(f(x),g(x)\)は、2次の整数係数多項式) と分解できるとすると、\(f(x)=0\)の解は\(\zeta,\zeta^{2},\zeta^{3},\zeta^{4}\)のうちの2つとなる。\(g(x)=0\)の解も同様である。したがって、\(\zeta\)は\(f(x)=0\)の解としても一般性を失わない。そして、\(f(x)\)のもう一つの解は\(\zeta^{2},\zeta^{3},\zeta^{4}\)のいずれかであるが、\(f(x)\)が整数係数多項式であることを考えると\(\zeta^{4}\)であると分かる。(それ以外は\(\zeta\)とかけて整数とならない。)

したがって、

\[ \begin{align} f(x) & = (x-\zeta)(x-\zeta^{4}) \\ & = x^{2}-(\zeta+\zeta^{4})+1 \end{align} \]

すると、\(g(x)=0\)の解は残りの\(\zeta^{2},\zeta^{3}\)であるため、 \[ \begin{align} g(x) &= (x-\zeta^{2})(x-\zeta^{3})\\ &= x^{2}-(\zeta^{2}+\zeta^{3})+1 \end{align} \] となる。そこで、\(\zeta+\zeta^{4}\)と\(\zeta^{2}+\zeta^{3}\)が整数でないことを示せばよい。 \[ \alpha=\zeta+\zeta^{4},\ \ \beta=\zeta^{2}+\zeta^{3}\] とおくと、\(\zeta\)は、\(x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1=0\)の解であるため、

\[ \alpha+\beta=\zeta^{4}+\zeta^{3}+\zeta^{2}+\zeta=-1 \]

また、\(\zeta^{5}=1\)であることから、

\[\begin{align} \alpha\beta &=(\zeta+\zeta^{4})(\zeta^{2}+\zeta^{3})\\ &=\zeta^{3}+\zeta^{4}+\zeta+\zeta^{2}\\ &=-1 \end{align} \]

 したがって、\(\alpha,\beta\)は、 \[\tag{2} x^{2}+x-1=0\] の解であるが、これは整数解をもたないのは明らかである。

 したがって、\(x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1\)が既約であると示された。

上の証明中で、 \[f(x) = (x-\zeta)(x-\zeta^{4})\] \[g(x) = (x-\zeta^{2})(x-\zeta^{3}) \] となった。ここで、\(\{1,4\}\)は\(\bmod{5}\)で平方剰余、\(\{2,3\}\)は\(\bmod{5}\)で平方非剰余であるのは偶然でない。

 \(\alpha-\beta\)はいわゆるガウス和といわれるものであり、\(\sqrt{5}\)となる。

1の5乗根を求める

 なお、\(x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1\)が既約であることを示すのであれば、これで十分であるが、上の証明を用いれば、1の5乗根も求めることができる。

  \(\alpha,\beta\)は、\(x^{2}+x-1=0\)の解であるから、

\[ \alpha,\beta=\frac{-1\pm\sqrt{5}}{2} \]

であるが、\( Re\alpha>Re\beta \)であることが、ガウス平面上での位置を確認することにより分かることから

\[ \alpha=\frac{-1+\sqrt{5}}{2} \]

\(\zeta^{4}=\zeta^{-1}\)であることを使うと

\[ \alpha=\zeta+\zeta^{-1}\]

よって、

\[ \zeta^{2}-\alpha\zeta+1=0 \]

この\(\alpha\)に\(\frac{-1+\sqrt{5}}{2} \)を代入して上の2次方程式を解くと

\[ \begin{align} \zeta &= \frac{\alpha +\sqrt{\alpha^{2}-4}}{2}\\ &= \frac{-1+\sqrt{5}+\sqrt{10+2\sqrt{5}}i}{4} \end{align} \]

と分かる。

 なお、一般的には、方程式\(x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1=0\)は次のように解く。 両辺を\(x^{2}\)で割ると、

\[ x^{2}+x+1+x^{-1}+x^{-2}=0 \] \[ (x^{2}+\frac{1}{x^{2}})+(x+\frac{1}{x})+1=0\] \[ (x+\frac{1}{x})^{2}+(x+\frac{1}{x})-1=0 \]

そこで、\(t=x+\frac{1}{x}\)とおくと上 の方程式は \[ \tag{2} t^{2}+t-1=0\] となるため、この式を解いて\(t\)を求め、ついで\(x\)を求めればよい。

 なお、式(2)は、式(1)と同じであるのはもちろん偶然ではないが、この点についてはあらためて説明する。

 以下、\(n\)が6以上の場合を簡単に確かめてみる。

\(n=6\)の場合

\(n=6\)の場合 \[ \begin{align} x^{6}-1 &=(x^{3}-1)(x^{3}+1)\\ &=(x-1)(x^{2}+x+1)(x+1)(x^{2}+x+1)\\ &=(x-1)(x+1)(x^{2}+x+1)(x^{2}+x+1)\\ \end{align} \]

である。\(n=5\)より\(n=6\)の方がやさしいのは、6が2・3と素因数分解できるからである。

\(n=7\)の場合

\(n=7\)の場合は、

\[ (x^{7}-1)=(x-1)(x^{6}+x^{5}+x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1) \]

までは分かるが、問題は、\((x^{6}+x^{5}+x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1) \)が既約か否かである。

\(n=5\)の場合と同様に証明できるが、別の機会にする。

\(n=8\)の場合

 \(n=8\)の場合は、

\[ \begin{align} x^{8}-1 &=(x^{4}-1)(x^{4}+1)\\ &=(x^{2}-1)(x^{2}+1)(x^{4}+1)\\ &=(x-1)(x+1)(x^{2}+1)(x^{4}+1)\\ \end{align} \]

である。\((x^{4}+1) \)が既約であるのは、ここでは省略するが、(4次式であり)それほど難しくはない。

\(n\)が一般の場合

 このように、次数が上がれば難しくなるかというと必ずしもそうではなくて、\(n=8\)以下であれば、\(n=7\)のときの\((x^{6}+x^{5}+x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1) \)が既約であることを示すのが一番大変だと思う。

 ここまでの成果をまとめると次のようになる

\(n\) 因数分解 因数の数  最高次数
2 \((x-1)(x+1)\) 2 1
3 \((x-1)(x^{2}+x+1)\) 2 2
4 \((x-1)(x+1)(x^{2}+1)\) 3 2
5 \((x-1)(x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1)\) 2 4
6 \((x-1)(x+1)(x^{2}+x+1)(x^{2}-x+1)\) 4 2
7 \((x-1)(x^{6}+x^{5}+x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1)\) 2 6
8 \((x-1)(x+1)(x^{2}+1)(x^{4}+1)\) 4 4

 さて、この表から一般の\(n\)について、何か法則は見つけられるだろうか?