美的数学のすすめ

初等整数論のうち、平方剰余の相互法則の意味を当面の目標としたいと思います。ゆくゆくは、ガウス和、円分体論まで到達したいです。

原始根の存在定理-剰余類の基本的な性質(その3)

 今回は、剰余類(素数の場合)の基本的な性質の第3弾として、原始根の存在定理をご紹介します。

 第1弾は、\(p\)を素数とする場合、\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)が体になること。(なお、体とは、可換(掛け算が交換可能)で、0以外の元による割り算ができるもの-代表的なものとしては、有理数全体、実数全体、複素数全体などです。)

剰余類の基本的な性質 - 美的数学のすすめ

第2弾は、Fermatの小定理です。

剰余類の基本的な性質(その2) ー Fermatの小定理 - 美的数学のすすめ

そして、第3弾が今回の原始根の存在定理となります。

1 原始根(primitive root)の存在 

 \( \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)^{\times} \)の元\( r\in \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)^{\times} \)で、\( p-1\) 乗してはじめて\(1\)となる元を、\(p\)を法とする原始根(primitive root)といいます。

 Fermatの小定理により、任意の\(\left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)^{\times} \)の元は、\(p-1\)乗すると\(1\)になりますので、ここでのポイントは、\( p-1\)乗してはじめて\(1\)となる点です。

 以下、\( \equiv \)の代わりに\(=\)と書き、適宜\( \bmod{p}\)は省略します。

(例) \( p=5 \)のとき、\(2^{2}=4,\ 2^{3}=8=3,\ 2^{4}=1\)であり、\(2\)が原始根であることが分かる。

(例) \(p=11\)のとき、\(2^{2}=4,\ 2^{3}=8,\ 2^{4}=16=5,\ 2^{5}=10=-1\)ですので、ここまで分かれば\(2\)が原始根であると分かります。(この後のべき乗は\(2^{6}=-2\)のようにマイナスがついて巡回します。)

 原始根が存在するというのが原始根定理です。

(原始根定理)

 任意の素数\(p\)に対し、\(p\)を法とする原始根は存在する。

 原始根を\(r\)とすると、原始根の定義から、\(1,r,r^{2},\cdots, r^{p-2}\)は重複しない\(\left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\right)^{\times}\)の元であることがわかります。なぜなら、\( r^{n}=r^{m}\ (0\leq n<m\leq p-1)\)とすると、\(r^{m-n}=1\ (0<m-n<p-1)\)となり、\(r\)が原始根であることに矛盾するからです。

一方、\(\left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\right)^{\times}\)の元の個数は、\(\varphi(p)=p-1\)です。したがって、原始根の存在定理を認めると、 \[ \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\right)^{\times}=\{1,r,r^{2},\cdots,r^{p-2}\}\] であることが分かります。

 逆に、\(\left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\right)^{\times}\)が巡回群であるとすると、\(\left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\right)^{\times}\)の生成元は原始根であることが重要なことが分かります。

 したがって、原始根の存在定理と、\(\left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\right)^{\times}\)が巡回群であることは同値であることが分かります。以上より、原始根の存在定理を認めると、次のことが示されます。

 \( \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)^{\times} \)は、位数\( p-1(=\varphi(p)) \)の巡回群である。このとき、原始根と、巡回群の生成元とは同義である。

 位数\( p-1 \)の巡回群の生成元の個数は、\(\varphi(p-1)\)個ですので(see Eulerのファイ函数 - 美的数学のすすめ)、法を\(p\)とする原始根は、\(\varphi(p-1)\)個あることが分かります。なにやら、Eulerの\(\varphi\)函数がたくさんでてきますが、こんなことからも\(\varphi\)函数が分かります。

2 原始根(primitive root)の存在定理の背景

 原始根という名前は、Euler(オイラー)が始めて使ったようですが、Euler自身は原始根定理を証明をしていないようです。原始根の存在定理を始めて証明したのは、Gauss(ガウス)です。原始根の存在定理の証明は、決して難しいわけではありませんが、Fermatの小定理のように簡潔に記載するのは難しいです。証明は、別の機会にゆずり、ここでは、原始根の存在定理の背景について書いてみたいと思います。原始根の存在定理は、もっと大きな話の中の、一部だということが分かってもらればと思います。

2.1 有限体における原始根の存在定理

  \( \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)^{\times} \)は、有限体ですが(see 剰余類の基本的な性質 - 美的数学のすすめ)、原始根の存在定理は、有限体においても成立します。

 \(\mathbb{F}\)を有限体し、その位数(元の要素)を\(q\)とします。このとき、Fermatの小定理と同様の定理が成り立ちます。

(有限体におけるFermatの小定理)

有限体\(\mathbb{F}\)の任意の\(0\)でない元\(r\)に対し次が成り立つ。 \[ r^{q-1}=1\]

 これは、Fermatの小定理は群論の基本的な性質から導かれることから、同様に成り立つ性質です。(\(\mathbb{F}^{\times}\)は、乗法に関し、位数\(q-1\)の群になります。)

 すると、剰余類の場合と同様に、有限体\(\mathbb{F}\)の原始根が、\(\mathbb{F}^{\times}\)の元で、\(q-1\)乗してはじめて1になる元として定義できます。このとき、有限体においても原始限の存在定理が示されます。

(有限体における原始根の存在定理)

\(\mathbb{F}\)を有限体とするとき、\(\mathbb{F}\)の原始根は存在する。

 剰余類\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)は有限体ですので、剰余類における原始根の存在定理は、有限体における原始根の存在定理の一類型と考えることができます。

 更に、一般化すると、\(F\)を一般的な体(無限体を含む。)とするとき、剰余群\(F^{\times}\)の有限部分群は、巡回群であることが知られています。  これらの証明では、\(n\)次多項式の解の個数が\(n\)個以下であることがポイントになっています。

 このように、原始根の存在定理は、体における原始根の存在定理に帰着させて理解することができます。

  原始根の存在定理は、体の基本的性質として理解せよ!

 これに対して、Fermatの小定理は、有限群の基本的性質として理解するのでしたね。(当然のことではありますが、原始根の存在定理を前提とすると、Fermatの小定理は簡単に示すことができます。)

 次回は、原始根が存在する別の類型について解説します。