美的数学のすすめ

初等整数論のうち、平方剰余の相互法則の意味を当面の目標としたいと思います。ゆくゆくは、ガウス和、円分体論まで到達したいです。

Eulerのファイ函数

剰余類の基本的な性質を説明する上で必要になりますので、今日は、Euler(オイラー)の\(\varphi\)函数(ファイ函数)のご説明をします。

1 オイラーの\(\varphi\)函数の定義

   \(n\)以下の自然数で\(n\)と互いに素なものの数を\(\varphi(n)\)と書き、オイラーのファイ函数といいます。

(例)\(n=10\)とすると、1から10までの自然数で10と互いに素なものは \[ 1,3,7,9\] の4つですので \(\varphi(10)=4\)です。

1.1 なぜこんな定義なのか

 なぜ、オイラーはこんな函数を定義したのでしょうか。それは、\(\bmod{n}\)の世界では、\(n\)と互いに素な数というのは、“特別な色合い”というのか、“特別な感覚”、“ざらざら感”のような、“融けないもの”のような感覚があるからです。

 その感覚が、何処に由来するのか考えて見ましたが、その感覚は、\(n\)と互いに素な数がもつ、次の特別な性質によるためだと思います。

\(n\)と互いに素な整数は、\(\bmod{n}\)で逆元をもつ

 ここで、逆元とは、乗法における逆元を意味していますので、逆数のことです。つまり、逆元をもつとは、“掛けて1になる数をもつ”、ということです。

(例)先ほどの\(n=10\)の場合、10と互いに素な数\(1,3,7,9\)は、全て逆元を持ちます。 \[ 1\cdot1\equiv 1, \ \ 3\cdot 7\equiv 1, \ \ 9\cdot 9\equiv 1 \pmod{10} \]  逆に、これら以外の数は、\(\bmod{10}\)で逆元をもちません。

 ここで、\(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\)の元で逆元をもつ元(既約剰余類といいます。)からなる集合を\(\left(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\right)^{\times}\)と書くと(日本語では、"ゼット・オーバー・エヌ・ゼット・バツ”などと読みます。)、つまり \[ \left(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\right)^{\times}=\{\overline{a}\in \left(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\right) | ab\equiv 1\pmod{n}なる整数bが存在する\} \] とおきます。

 このとき、\( \left(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\right)^{\times}\)の位数(元の数)は\(\varphi(n)\)になります。

 \( \left(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\right)^{\times}\)は、とても重要な群ですが、その位数が\(\varphi(n)\)なのです。

1.2 \(\varphi\)函数が役立つもう一つの事例

 もう一つ\(\varphi(n)\)が役立つ例があります。それは、\(\varphi(n)\)が、“位数\(n\)の巡回群の生成元の個数”を表しているということです。

 位数\(n\)の巡回群は、生成元を1つ固定することにより、\(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\)と同型となります。そして、\(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\)のうち、生成元となる元は、\(\left(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\right)^{\times}\)の元です。(これも、\(n\)と互いに素な数がもつ、特別なざらざら感と関連しているように思います。)
 したがって、\(\varphi(n)\)が、“位数\(n\)の巡回群の生成元の個数”と一致します。

1.3 \(\varphi\)函数が使われる重要な例(まとめ)

 ここまでに記載した\(\varphi\)函数が使われる重要な例をまとめると、以下のようになります。

\(n\)を2以上の自然数とするとき \[\begin{align} \varphi(n)&=| \left(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\right)^{\times}|\\ \varphi(n)&=位数nの巡回群の生成元の個数 \end{align} \]

 次回は、\(\varphi(n )\)を求める際に必要となる\(\varphi\)函数の重要な性質について解説します。