美的数学のすすめ

初等整数論のうち、平方剰余の相互法則の意味を当面の目標としたいと思います。ゆくゆくは、ガウス和、円分体論まで到達したいです。

Fermatの小定理-剰余類の基本的な性質(その2) 

 これから、剰余類\( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \)の基本的な性質をいくつか挙げていきます。

 一つ目は、Fermatの小定理(Fermat’s little theorem)です。Fermat(フェルマー)は近代整数論の先駆者であり、Fermat(フェルマー)-Euler(オイラー)-Gauss(ガウス)-・・・・-高木貞治(たかぎていじ、解析概論の著者として有名)と累々と続く、近代整数論の創始者のような人です。

 Fermatは、多数の定理を残していますが、これはそのうちの1つです。単にフェルマーの定理というと、フェルマーの大定理とか最終定理とか呼ばれているものを指すことが多いので、わざわざ「小定理」と呼ぶことが多いです。

 1. Fermatの小定理 

(Fermatの小定理)

 \(p\)を素数\( a\)を\(p\)と互いに素な整数とするとき、次が成立する。 \[ a^{p-1}\equiv 1 \pmod{p} \]

    (例)\( 2^{10}\equiv 32^{2} \equiv(-1)^{2}\equiv 1\pmod{11}\)

 2. 剰余類の乗法群

 前回の解説のとおり、\( \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)\)のゼロでない任意の元は、逆元を持ちます。そこで、\( \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)\)のゼロ以外の元の集合を\( \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)^{\times}= \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}-\{\overline{0}\}=\{1,2,\cdots,p-1\}\)とすると、\( \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)^{\times}\)は、掛け算(乗法)に関して群をなします。

\( \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)^{\times}\)のことを、剰余類の乗法群と呼びます。(日本語では、“ゼット・オーバー・ピー・ゼット・バツ”などと呼びます。)

 \(p\)を素数とする。このとき、

 \( \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)^{\times}\)は、乗法に関し、位数\(p-1\)の群をなす。

 位数が\(p-1\)であることは、\( \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)^{\times}\)は、\( \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right) \)から\(0\)を除いた集合なので、当たり前のことを言っているに過ぎません。しかし、このことは、重要ですので、あえて繰り返します。

 \(p\)を素数とする。このとき

  \( \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)\)は加法に関し、位数\(p\)の群をなす。

 \( \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)^{\times}\)は乗法に関し、位数\(p-1\)の群をなす。

 このように、加法群としての剰余類と、乗法群としての剰余類は、位数が異なります。これは、後に円分体論を考えるうえでのポイントになります。

 3. Fermatの小定理の証明 

 \( \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)^{\times}\)は、位数\((p-1)\)の群となります。したがって、Fermatの小定理は次の有限群の一般論に帰着します。

(参考)
 一般に\(G\)を有限群、\(g\)をその位数(=元の数)とするとき、つまり、\( g=|G|\)とするとき、\(G\)の任意の元\(a\in G\)に対して、次が成立する。(\(e\)は単位元) \[ a^{g}=e \]

 Fermatの小定理は、整数論的な帰結ではなく、群論の帰結だと理解すべき!

 このように、Fermatの小定理は、群の基本的な性質から導かれるものであり、群論の中で理解すべきものです。しかし、ここでは、あえて合同式の基本的な性質を用いて証明してみます。その前に、準備をします。

 3.1 Frobeniusの自己同型 

(定理1、Frobeniusの自己同型)

\(p\)を素数とするとき、任意の整数\(n,m\)に対し、次が成立する。 \[ (n+m)^{p}\equiv n^{p}+m^{p} \pmod{p}\]

 定理1は、左辺を2項展開するときに出てくる中間項\( {}_{p}C_{k}n^{k}m^{p-k}\) の係数が \( {}_{p}C_{k}\)が\(1\le k\le p-1\) のとき\(p\)で割り切れることに帰着しますが、ここでは証明しません。

 \(p\)を素数とするとき、 \[ (nm)^{p}\equiv n^{p}m^{p} \pmod{p}\] は当然に成り立っています。

すると、上の定理1とあわせて考えると、\( \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)\)から、\( \left( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \right)\)への写像

\[ x\longmapsto x^{p} \]

が、体の同型写像になっている事が分かります。(これを、Frobenius自己同型写像といいます。)Frobeniusの自己同型写像は、フェルマーの小定理に、負けず劣らず重要な概念であり、類体論では重要な役割を演じます。

 3.2 Fermatの小定理の証明

 さて、Fermatの小定理の証明です。Frobenius自己同型が、恒等写像となることを用いて証明します。

定理1を繰り返し使うことにより、任意の整数\(n_{1}, n_{2},\cdots , n_{k}\)に対し、 \[ (n_{1}+n_{2}+\cdots+ n_{k})^{p}\equiv n_{1}^{p}+ n_{2}^{p}+\cdots+ n_{k}^{p}\pmod{p} \] が成立する。ここで、全ての\(n\)に\(1\)を代入すると、 \[ (1+1+\cdots+ 1)^{p}\equiv 1+ 1+\cdots+ 1\pmod{p}\] さて、任意の整数\(a\)は、(たとえ、負の整数であっても) \[ a\equiv 1+ 1+\cdots+ 1\pmod{p}\] と表すことができるので、この両辺を\(p\)乗したうえで、上の性質を使うと \[ \begin{align} a^{p} & \equiv (1+1+\cdots+ 1)^{p} \pmod{p} \\ &\equiv 1+ 1+\cdots+ 1\pmod{p}\\ &\equiv a \pmod{p} \end{align} \] したがって、\(a\)が\(p\)と互いに素とすると \[ a^{p-1}\equiv 1 \pmod{p}\]

 如何でしたか。Frobeniusの自己同型写像が恒等写像となることを用いて、Fermatの小定理を証明しました。Frobeniusの自己同型写像は、\( \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} \)上は恒等写像となりますが、その拡大体上は恒等写像となりません。 Frobeniusの自己同型写像は、類体論ではキーとなる概念です。Fermatの小定理に負けず劣らず重要ですので、覚えておきましょう。

 さて、Fermatの小定理の証明や応用については、下記も大変に参考になりおもしろい話題が満載です。コメントや質問は大歓迎です!

循環小数(1): フェルマーの小定理 - tsujimotterのノートブック

フェルマーの小定理の証明と例題 | 高校数学の美しい物語