美的数学のすすめ

初等整数論のうち、平方剰余の相互法則の意味を当面の目標としたいと思います。ゆくゆくは、ガウス和、円分体論まで到達したいです。

円分多項式の分解法則とmodの交換

 \(p\)と\(q\)を素数とします。このとき、

円分多項式\(\Phi_{q}(x)\)の\(\bmod{p}\)での分解


\(p\)の\( (\mathbb{Z}/q\mathbb{Z})^{\times}\)の中での位数

が関連していることを説明しました。どういうわけか、modが交換されています。

biteki-math.hatenablog.com

 今回は、なぜ、このようにmodが交換されるのか考えていきます。

 まず、円分多項式\(\Phi_{q}(x)\)の\(\bmod{p}\)での因数分解にどのような法則があるのか思い出してみましょう。

\(q=5\)のとき

 \(q=5\)のとき、円分多項式\(\Phi_{5}(x)\)を\(\bmod{p}\)で因数分解すると次のようになります。(see. 円分多項式のmod pにおける因数分解 - 美的数学のすすめ)

素数 \( x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1\)の因数分解
\( 3 \) \( (x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1)\)
\( 5 \) \( (x -1)^{4} \)
\( 7 \) \( (x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1) \)
\( 11 \) \( (x + 2) (x + 6) (x + 7) (x + 8) \)
\( 13 \) \( (x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1) \)
\( 17 \) \( (x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1) \)
\( 19 \) \( (x^{2} + 5 x + 1) (x^{2} + 15 x + 1) \)
\( 23 \) \( (x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1) \)
\( 29 \) \( (x^{2} + 6 x + 1) (x^{2} + 24 x + 1) \)
\( 31 \) \( (x + 15) (x + 23) (x + 27) (x + 29) \)
\( 37 \) \( (x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1) \)
\( 41 \) \( (x + 4) (x + 23) (x + 25) (x + 31) \)
\( 43 \) \( (x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1) \)
\( 47 \) \( (x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1) \)

これを一般的にまとめると次のようになります。

まず、\(p=5\)のときは

\[\Phi_{5}\equiv (x-1)^{4}\pmod{5}\]

です。

また\(p\ne 5\)のときは、\(p\)の\(\bmod{q}\)における位数に応じて次のようになります。

\(p\equiv 1\pmod{5}\)のとき、
     \( \Phi_{5}(x)\)は\(4\)個の1次式に分解する(完全分解)。

\(p\equiv 4\pmod{5}\)のとき、
     \( \Phi_{5}(x)\)は\(2\)個の2次式に分解する。

\(p\equiv 2,3\pmod{5}\)のとき、
     \( \Phi_{5}(x)\)は\(1\)個の4次式に分解する(既約)。


考え方のポイント

 さて、今回は、なぜこのようなことが起こるのか考えてみますが、まず、最初に、いくつかのポイントをお話します。

1. \(\Phi_{q}(x)\)を\(\mathbb{F}_{p}\)上の多項式と考えた場合、その解は\(\mathbb{F}_{p}\)の有限次拡大体に含まれる

 複素数体で円分多項式を考える場合、円分多項式の解は\(\zeta_{q}=\exp{\frac{2\pi i}{q}}\)のべき乗で表すことができました。

 しかし、\(\Phi_{q}(x)\)を\(\mathbb{F}_{p}\)上の多項式と考えた場合の解は、そのように表すことはできません。

 そもそも、解は複素数体に含まれていません。では、どこに含まれているのでしょうか?

 \(\Phi_{q}(x)\)を\(\mathbb{F}_{p}\)上の多項式と考えた場合の解を\(\mathbb{F}_{p}\)に添加した体は、\(\mathbb{F}_{p}\)の有限次拡大体になります。したがって、この解は\(\mathbb{F}_{p}\)の有限次拡大体に含まれているのです。

2. \(\Phi_{q}(x)\)を有限体\(\mathbb{F}_{p}\)上の多項式と考えた場合、その解は1の\(q\)乗根である。

円分多項式は、複素数体上で考える場合、その解は1の\(q\)乗根です。なぜなら、円分多項式の解は、1の原始\(q\)乗根全てからなるからです。

 同様のことは、\(\Phi_{q}(x)\)を有限体\(\mathbb{F}_{p}\)上の多項式と考えた場合でもいえます。しかし、有限体\(\mathbb{F}_{p}\)上の多項式と考える場合、その解は、原始\(q\)乗根とは限りません。

 以下、この点を確認します。

\[\Phi_{q}(x)=x^{q-1}+x^{q-2}+\cdots+x+1\] です。したがって、両辺に\( (x-1)\)をかけると \[ \begin{align} (x-1)\Phi_{q}(x)&=(x-1)(x^{q-1}+x^{q-2}+\cdots+x+1)\\ &=x^{q}-1 \end{align}\] となります。

よって、\(\alpha\)を円分多項式\(\Phi_{q}(x)\)をの解とすると、

\[ (\alpha-1)\Phi_{q}(\alpha)=\alpha^{q}-1\] ですが、左辺は\(\alpha\)の定義より、\(\Phi_{q}(\alpha)=0\)ですので、

\[ \alpha^{q}=1\]

です。つまり、\(\alpha\)は、1の\(q\)乗根であることが分かりました。


 

\(q=5\)の場合の説明

 以下、\(q=5\)の場合、円分多項式\(\Phi_{5}(x)\)の因数分解には上で見たような法則がありますが、ここでは、なぜ、そのような法則があるのか説明します。(なお、ここでは、\(q=5\)の場合の説明をしますが、一般的にも下記の説明が可能です。)

1. \(\bmod{5}\)での因数分解

 まず、はじめに\(p=5\)の場合を考えます。

 このとき、これまでに、何度か使ったことがありますが、 \[ (x+y)^{5}\equiv x^{5}+y^{5} \pmod{5}\]

が成立します。(二項展開した際に出てくる途中の項\({}_{p} \mathrm{C}_{m}\)が、\(p\)の倍数になるためです。)

 これに\(y=-1\)とすると \[ (x-1)^{5}\equiv x^{5}-1 \pmod{5}\] です。両辺を\( (x-1)\)で割ると

\[\Phi_{5}(x)\equiv(x-1)^{4} \pmod{5}\]

 つまり、\(\Phi_{5}(x)\)を\(\bmod{5}\)で因数分解すると、\(\Phi_{5}(x)\equiv(x-1)^{4} \pmod{5}\)であることが分かりました。

 ポイントは、 \[ (x+y)^{5}\equiv x^{5}+y^{5} \pmod{5}\] ですね!



2. \(p\equiv 1\pmod{5}\)の場合の\(\bmod{p}\)での因数分解

\(p\equiv 1\pmod{5}\)のとき、\(\Phi_{5}(x)\)の\(\bmod{p}\)での因数分解を考えます。

 有限体の剰余群\(\ \mathbb{F}_{p}^{\times}\cong (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)は、位数\(p-1\)の巡回群です(原始根定理)。原始根を\(r\in \mathbb{F}_{p}^{\times}\)とすると、\(p\equiv 1\pmod{5}\)ですので、その位数\( (p-1)\)は5で割り切れます。そこで、 \[ r^{\frac{p-1}{5}},\ \ \ r^{\frac{2(p-1)}{5}},\ \ \ r^{\frac{3(p-1)}{5}},\ \ \ r^{\frac{4(p-1)}{5}}\ \ \ \]

を考えると、\(r\)が原始根であることより、これらは5乗すると1になることが分かります。

 また、同じく\(r\)が原始根であることを考えると、これらは、すべて異なる\( \mathbb{F}_{p}^{\times}\)の元であることが分かります。

 つまり、これらは方程式、\(\Phi_{5}(x)=x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1=0\)の4つの解であることが分かります。

 これは、\(\Phi_{5}(x)\)が次のように因数分解されることを示しています。 \[ \Phi_{5}(x)=(x-r^{\frac{p-1}{5}})(x- r^{\frac{2(p-1)}{5}})(x- r^{\frac{3(p-1)}{5}})(x-r^{\frac{4(p-1)}{5}})\]

 つまり、\(\Phi_{5}(x)\)は、 \(p\equiv 1\pmod{5}\)となる素数\(p\)で完全分解することが分かりました。



3. \(p\equiv 4\pmod{5}\)の場合の\(\bmod{p}\)での因数分解

 次に、 \(p\equiv 4\pmod{5}\)のときを考えます。このとき、\(p-1\)は5の倍数ではありますんので、上のような方法は使えません。

 ここで、\(p\equiv 4\pmod{5}\)ですので、\(p^{2}\equiv 1\pmod{5}\)となることに注意しましょう。つまり、\(p^{2}-1\)は5で割り切れます!

 そこで、\(\mathbb{F}_{p}\)の2次拡大\(\mathbb{F}_{p^{2}}\)を考えてみましょう。\(\mathbb{F}_{p^{2}}\)も巡回群となります。

 そして、その位数は\(p^{2}-1\)です。

有限体の構造 - 美的数学のすすめ

 そこで、上と同じ方法を使いましょう。\(\mathbb{F}_{p^{2}}\)の原始根を\(r\)として、

\[ r^{\frac{p^{2}-1}{5}},\ \ \ r^{\frac{2(p^{2}-1)}{5}},\ \ \ r^{\frac{3(p^{2}-1)}{5}},\ \ \ r^{\frac{4(p^{2}-1)}{5}}\ \ \ \]

を考えます。すると、\(r\)が原始根であることより、これらは5乗すると1になることが分かります。

 また、同じく\(r\)が原始根であることを考えると、これらは、すべて異なる\( \mathbb{F}_{p^{2}}^{\times}\)の元であることが分かります。

 つまり、これらは、円分多項式\(\Phi_{5}(x)=0\)の全ての解であることが分かります。

 さらに、これらは、どの1つをとっても、\(\mathbb{F}_{p}\)の元ではありません。なぜなら、\(\mathbb{F}_{p}\)の元は、\(p\)乗すると元に戻るという性質があります。

有限体の構造 - 美的数学のすすめ

 しかし、これらの元を\(p\)乗しても元に戻りません。(これは、\(r\)が\( \mathbb{F}_{p^{2}}^{\times}\)の原始根であることからわかります。)

つまり、円分多項式\(\Phi_{5}(x)=0\)の解は、すべて、有限体\(\mathbb{F}_{p}\)の2次拡大\(\mathbb{F}_{p^{2}}\)に含まれていることが分かりました。これは何を意味しているのでしょうか。

 これは、円分多項式\(\Phi_{5}(x)\)が2次式×2次式に分解することを意味しています。

 なぜなら、解が\(\mathbb{F}_{p}\)に含まれないことから、\(\Phi_{5}(x)\)が1次の因子を持たないことが、分かります。

   もし、円分多項式\(\Phi_{5}(x)\)が既約だとすると、その解は2次拡大体ではなく、4次拡大体に含まれます。

 これらのことを考えると、2次式×2次式に分解するしか選択肢はありません。

 つまり、\(\Phi_{5}(x)\)は、 \(p\equiv 4\pmod{5}\)となる素数\(p\)で2つの2次式に分解することが分かりました。



4.\(p\equiv 2,3\pmod{5}\)の場合の\(\bmod{p}\)での因数分解

 \(p\equiv 2,3\pmod{5}\)の場合、\(p-1\)も、\(p^{2}-1\)も5で割り切れません。

 しかし、\(p^{4}\equiv 1\pmod{5}\)ですので、\(p^{4}-1\)は5で割り切れます。

 したがって、上と同じことを、\(\mathbb{F}_{p}\)の4次拡大\(\mathbb{F}_{p^{4}}\)で考えてみます。4次拡大体\(\mathbb{F}_{p^{4}}\)の乗法群\(\mathbb{F}_{p^{4}}^{\times}\)は巡回群となり、その位数は\(p^{4}-1\)となります。

 そこで、\(\mathbb{F}_{p^{4}}\)の原始根を\(r\)とします。そして、上と同様に、

\[ r^{\frac{p^{4}-1}{5}},\ \ \ r^{\frac{2(p^{4}-1)}{5}},\ \ \ r^{\frac{3(p^{4}-1)}{5}},\ \ \ r^{\frac{4(p^{4}-1)}{5}}\ \ \ \]

を考えます。すると、\(r\)が原始根であることより、これらは5乗すると1になることが分かります。 また、同じく\(r\)が原始根であることを考えると、これらは、すべて異なる\( \mathbb{F}_{p^{4}}^{\times}\)の元であることが分かります。

 つまり、これらは、円分多項式\(\Phi_{5}(x)=0\)の全ての解であることが分かります。

 さらに、これらは、どの1つをとっても、\(\mathbb{F}_{p}\)の元でも\(\mathbb{F}_{p^{2}}\)の元でもありません。なぜなら、\(\mathbb{F}_{p^{2}}\)の元は、\(p^{2}\)乗すると元に戻るという性質がありますが、これらの元を\(p^{2}\)乗しても元に戻りません。

 つまり、円分多項式\(\Phi_{5}(x)=0\)の解は、すべて、有限体\(\mathbb{F}_{p}\)の4次拡大\(\mathbb{F}_{p^{4}}\)に含まれていることが分かりました。

   これは、\(\Phi_{5}(x)\)が\(\mathbb{F}_{p}\)上、既約であることを意味しています。

 なぜなら、\(\Phi_{5}(x)\)が\(\mathbb{F}_{p}\)上、既約でなく因数分解ができたら、3次式以下に因数分解されるはずですが、その場合、解は、3次(以下)の拡大に含まれているはずです。しかし、上でみたように、すべての解は、4次拡大に含まれています。

 よって、\(\Phi_{5}(x)\)は、 \(p\equiv 2,3\pmod{5}\)となる素数\(p\)で既約であることが分かりました。




 以上、有限体の拡大体の知識をフル活用しましたが、結局、

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円分多項式の解は、1のべき乗根である

ことと、

有限体の剰余群が巡回群である

ことがポイントとなっていますね!