円分多項式の分解法則とmodの交換
\(p\)と\(q\)を素数とします。このとき、
と
が関連していることを説明しました。どういうわけか、modが交換されています。
今回は、なぜ、このようにmodが交換されるのか考えていきます。
まず、円分多項式\(\Phi_{q}(x)\)の\(\bmod{p}\)での因数分解にどのような法則があるのか思い出してみましょう。
\(q=5\)のとき
\(q=5\)のとき、円分多項式\(\Phi_{5}(x)\)を\(\bmod{p}\)で因数分解すると次のようになります。(see. 円分多項式のmod pにおける因数分解 - 美的数学のすすめ)
素数 | \( x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1\)の因数分解 |
---|---|
\( 3 \) | \( (x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1)\) |
\( 5 \) | \( (x -1)^{4} \) |
\( 7 \) | \( (x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1) \) |
\( 11 \) | \( (x + 2) (x + 6) (x + 7) (x + 8) \) |
\( 13 \) | \( (x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1) \) |
\( 17 \) | \( (x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1) \) |
\( 19 \) | \( (x^{2} + 5 x + 1) (x^{2} + 15 x + 1) \) |
\( 23 \) | \( (x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1) \) |
\( 29 \) | \( (x^{2} + 6 x + 1) (x^{2} + 24 x + 1) \) |
\( 31 \) | \( (x + 15) (x + 23) (x + 27) (x + 29) \) |
\( 37 \) | \( (x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1) \) |
\( 41 \) | \( (x + 4) (x + 23) (x + 25) (x + 31) \) |
\( 43 \) | \( (x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1) \) |
\( 47 \) | \( (x^{4} + x^{3} + x^{2} + x + 1) \) |
これを一般的にまとめると次のようになります。
まず、\(p=5\)のときは
\[\Phi_{5}\equiv (x-1)^{4}\pmod{5}\]
です。
また\(p\ne 5\)のときは、\(p\)の\(\bmod{q}\)における位数に応じて次のようになります。
\(p\equiv 1\pmod{5}\)のとき、
\( \Phi_{5}(x)\)は\(4\)個の1次式に分解する(完全分解)。
\(p\equiv 4\pmod{5}\)のとき、
\( \Phi_{5}(x)\)は\(2\)個の2次式に分解する。
\(p\equiv 2,3\pmod{5}\)のとき、
\( \Phi_{5}(x)\)は\(1\)個の4次式に分解する(既約)。
考え方のポイント
さて、今回は、なぜこのようなことが起こるのか考えてみますが、まず、最初に、いくつかのポイントをお話します。
1. \(\Phi_{q}(x)\)を\(\mathbb{F}_{p}\)上の多項式と考えた場合、その解は\(\mathbb{F}_{p}\)の有限次拡大体に含まれる
複素数体で円分多項式を考える場合、円分多項式の解は\(\zeta_{q}=\exp{\frac{2\pi i}{q}}\)のべき乗で表すことができました。
しかし、\(\Phi_{q}(x)\)を\(\mathbb{F}_{p}\)上の多項式と考えた場合の解は、そのように表すことはできません。
そもそも、解は複素数体に含まれていません。では、どこに含まれているのでしょうか?
\(\Phi_{q}(x)\)を\(\mathbb{F}_{p}\)上の多項式と考えた場合の解を\(\mathbb{F}_{p}\)に添加した体は、\(\mathbb{F}_{p}\)の有限次拡大体になります。したがって、この解は\(\mathbb{F}_{p}\)の有限次拡大体に含まれているのです。
2. \(\Phi_{q}(x)\)を有限体\(\mathbb{F}_{p}\)上の多項式と考えた場合、その解は1の\(q\)乗根である。
円分多項式は、複素数体上で考える場合、その解は1の\(q\)乗根です。なぜなら、円分多項式の解は、1の原始\(q\)乗根全てからなるからです。
同様のことは、\(\Phi_{q}(x)\)を有限体\(\mathbb{F}_{p}\)上の多項式と考えた場合でもいえます。しかし、有限体\(\mathbb{F}_{p}\)上の多項式と考える場合、その解は、原始\(q\)乗根とは限りません。
以下、この点を確認します。
\[\Phi_{q}(x)=x^{q-1}+x^{q-2}+\cdots+x+1\] です。したがって、両辺に\( (x-1)\)をかけると \[ \begin{align} (x-1)\Phi_{q}(x)&=(x-1)(x^{q-1}+x^{q-2}+\cdots+x+1)\\ &=x^{q}-1 \end{align}\] となります。
よって、\(\alpha\)を円分多項式\(\Phi_{q}(x)\)をの解とすると、
\[ (\alpha-1)\Phi_{q}(\alpha)=\alpha^{q}-1\] ですが、左辺は\(\alpha\)の定義より、\(\Phi_{q}(\alpha)=0\)ですので、
\[ \alpha^{q}=1\]
です。つまり、\(\alpha\)は、1の\(q\)乗根であることが分かりました。
\(q=5\)の場合の説明
以下、\(q=5\)の場合、円分多項式\(\Phi_{5}(x)\)の因数分解には上で見たような法則がありますが、ここでは、なぜ、そのような法則があるのか説明します。(なお、ここでは、\(q=5\)の場合の説明をしますが、一般的にも下記の説明が可能です。)
1. \(\bmod{5}\)での因数分解
まず、はじめに\(p=5\)の場合を考えます。
このとき、これまでに、何度か使ったことがありますが、 \[ (x+y)^{5}\equiv x^{5}+y^{5} \pmod{5}\]
が成立します。(二項展開した際に出てくる途中の項\({}_{p} \mathrm{C}_{m}\)が、\(p\)の倍数になるためです。)
これに\(y=-1\)とすると \[ (x-1)^{5}\equiv x^{5}-1 \pmod{5}\] です。両辺を\( (x-1)\)で割ると
\[\Phi_{5}(x)\equiv(x-1)^{4} \pmod{5}\]
つまり、\(\Phi_{5}(x)\)を\(\bmod{5}\)で因数分解すると、\(\Phi_{5}(x)\equiv(x-1)^{4} \pmod{5}\)であることが分かりました。
ポイントは、 \[ (x+y)^{5}\equiv x^{5}+y^{5} \pmod{5}\] ですね!
2. \(p\equiv 1\pmod{5}\)の場合の\(\bmod{p}\)での因数分解
\(p\equiv 1\pmod{5}\)のとき、\(\Phi_{5}(x)\)の\(\bmod{p}\)での因数分解を考えます。
有限体の剰余群\(\ \mathbb{F}_{p}^{\times}\cong (\mathbb{Z}/p\mathbb{Z})^{\times}\)は、位数\(p-1\)の巡回群です(原始根定理)。原始根を\(r\in \mathbb{F}_{p}^{\times}\)とすると、\(p\equiv 1\pmod{5}\)ですので、その位数\( (p-1)\)は5で割り切れます。そこで、 \[ r^{\frac{p-1}{5}},\ \ \ r^{\frac{2(p-1)}{5}},\ \ \ r^{\frac{3(p-1)}{5}},\ \ \ r^{\frac{4(p-1)}{5}}\ \ \ \]
を考えると、\(r\)が原始根であることより、これらは5乗すると1になることが分かります。
また、同じく\(r\)が原始根であることを考えると、これらは、すべて異なる\( \mathbb{F}_{p}^{\times}\)の元であることが分かります。
つまり、これらは方程式、\(\Phi_{5}(x)=x^{4}+x^{3}+x^{2}+x+1=0\)の4つの解であることが分かります。
これは、\(\Phi_{5}(x)\)が次のように因数分解されることを示しています。 \[ \Phi_{5}(x)=(x-r^{\frac{p-1}{5}})(x- r^{\frac{2(p-1)}{5}})(x- r^{\frac{3(p-1)}{5}})(x-r^{\frac{4(p-1)}{5}})\]
つまり、\(\Phi_{5}(x)\)は、 \(p\equiv 1\pmod{5}\)となる素数\(p\)で完全分解することが分かりました。
3. \(p\equiv 4\pmod{5}\)の場合の\(\bmod{p}\)での因数分解
次に、 \(p\equiv 4\pmod{5}\)のときを考えます。このとき、\(p-1\)は5の倍数ではありますんので、上のような方法は使えません。
ここで、\(p\equiv 4\pmod{5}\)ですので、\(p^{2}\equiv 1\pmod{5}\)となることに注意しましょう。つまり、\(p^{2}-1\)は5で割り切れます!
そこで、\(\mathbb{F}_{p}\)の2次拡大\(\mathbb{F}_{p^{2}}\)を考えてみましょう。\(\mathbb{F}_{p^{2}}\)も巡回群となります。
そして、その位数は\(p^{2}-1\)です。
そこで、上と同じ方法を使いましょう。\(\mathbb{F}_{p^{2}}\)の原始根を\(r\)として、
\[ r^{\frac{p^{2}-1}{5}},\ \ \ r^{\frac{2(p^{2}-1)}{5}},\ \ \ r^{\frac{3(p^{2}-1)}{5}},\ \ \ r^{\frac{4(p^{2}-1)}{5}}\ \ \ \]
を考えます。すると、\(r\)が原始根であることより、これらは5乗すると1になることが分かります。
また、同じく\(r\)が原始根であることを考えると、これらは、すべて異なる\( \mathbb{F}_{p^{2}}^{\times}\)の元であることが分かります。
つまり、これらは、円分多項式\(\Phi_{5}(x)=0\)の全ての解であることが分かります。
さらに、これらは、どの1つをとっても、\(\mathbb{F}_{p}\)の元ではありません。なぜなら、\(\mathbb{F}_{p}\)の元は、\(p\)乗すると元に戻るという性質があります。
しかし、これらの元を\(p\)乗しても元に戻りません。(これは、\(r\)が\( \mathbb{F}_{p^{2}}^{\times}\)の原始根であることからわかります。)
つまり、円分多項式\(\Phi_{5}(x)=0\)の解は、すべて、有限体\(\mathbb{F}_{p}\)の2次拡大\(\mathbb{F}_{p^{2}}\)に含まれていることが分かりました。これは何を意味しているのでしょうか。
これは、円分多項式\(\Phi_{5}(x)\)が2次式×2次式に分解することを意味しています。
なぜなら、解が\(\mathbb{F}_{p}\)に含まれないことから、\(\Phi_{5}(x)\)が1次の因子を持たないことが、分かります。
もし、円分多項式\(\Phi_{5}(x)\)が既約だとすると、その解は2次拡大体ではなく、4次拡大体に含まれます。
これらのことを考えると、2次式×2次式に分解するしか選択肢はありません。
つまり、\(\Phi_{5}(x)\)は、 \(p\equiv 4\pmod{5}\)となる素数\(p\)で2つの2次式に分解することが分かりました。
4.\(p\equiv 2,3\pmod{5}\)の場合の\(\bmod{p}\)での因数分解
\(p\equiv 2,3\pmod{5}\)の場合、\(p-1\)も、\(p^{2}-1\)も5で割り切れません。
しかし、\(p^{4}\equiv 1\pmod{5}\)ですので、\(p^{4}-1\)は5で割り切れます。
したがって、上と同じことを、\(\mathbb{F}_{p}\)の4次拡大\(\mathbb{F}_{p^{4}}\)で考えてみます。4次拡大体\(\mathbb{F}_{p^{4}}\)の乗法群\(\mathbb{F}_{p^{4}}^{\times}\)は巡回群となり、その位数は\(p^{4}-1\)となります。
そこで、\(\mathbb{F}_{p^{4}}\)の原始根を\(r\)とします。そして、上と同様に、
\[ r^{\frac{p^{4}-1}{5}},\ \ \ r^{\frac{2(p^{4}-1)}{5}},\ \ \ r^{\frac{3(p^{4}-1)}{5}},\ \ \ r^{\frac{4(p^{4}-1)}{5}}\ \ \ \]
を考えます。すると、\(r\)が原始根であることより、これらは5乗すると1になることが分かります。 また、同じく\(r\)が原始根であることを考えると、これらは、すべて異なる\( \mathbb{F}_{p^{4}}^{\times}\)の元であることが分かります。
つまり、これらは、円分多項式\(\Phi_{5}(x)=0\)の全ての解であることが分かります。
さらに、これらは、どの1つをとっても、\(\mathbb{F}_{p}\)の元でも\(\mathbb{F}_{p^{2}}\)の元でもありません。なぜなら、\(\mathbb{F}_{p^{2}}\)の元は、\(p^{2}\)乗すると元に戻るという性質がありますが、これらの元を\(p^{2}\)乗しても元に戻りません。
つまり、円分多項式\(\Phi_{5}(x)=0\)の解は、すべて、有限体\(\mathbb{F}_{p}\)の4次拡大\(\mathbb{F}_{p^{4}}\)に含まれていることが分かりました。
これは、\(\Phi_{5}(x)\)が\(\mathbb{F}_{p}\)上、既約であることを意味しています。
なぜなら、\(\Phi_{5}(x)\)が\(\mathbb{F}_{p}\)上、既約でなく因数分解ができたら、3次式以下に因数分解されるはずですが、その場合、解は、3次(以下)の拡大に含まれているはずです。しかし、上でみたように、すべての解は、4次拡大に含まれています。
よって、\(\Phi_{5}(x)\)は、 \(p\equiv 2,3\pmod{5}\)となる素数\(p\)で既約であることが分かりました。
以上、有限体の拡大体の知識をフル活用しましたが、結局、
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ことと、
ことがポイントとなっていますね!