有限体の構造
次回、円分多項式\(\Phi_{q}(x)\)の\(\bmod{p}\)での因数分解の法則が、\(p\)の\(\bmod{q}\)における位数と関係あることを確認したいと思います。そのために、今回は、有限体の構造について考えてみます。
有限体の構造といっても、その多くは、\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)(\(p\)は素数)の性質を一般化したものです。したがって、よく慣れ親しんでいるものだと思います。
位数\(p\)の有限体
\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)は、位数\(p\)の有限体です。逆に、位数\(p\)の有限体は全て\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)と同型であることが知られています。
同型を除いて一つに定まる位数\(p\)の有限体を\(\mathbb{F}_{p}\)と記します。また、そのうち0以外の元からなる集合を\(\mathbb{F}_{p}^{\times}\)と記します。\(\mathbb{F}_{p}^{\times}\)は乗法に関して群をなします。
このとき、次が成立します。(これらの性質は、これまでに何度も使っていますが、もう一度まとめておきます。)
(Fermatの小定理)
\(a\in \mathbb{F}_{p}^{\times}\)に対し、\(a^{p-1}=1\)(Fermatの小定理の変形)
\(a\in \mathbb{F}_{p}\)に対し、\(a^{p}=a\)(原始根の存在定理)
\(\mathbb{F}_{p}^{\times}\)は原始根\(r\)が存在する。
(つまり、\(p-1\)乗してはじめて1になる元\(r\)が存在する。)
上に記載した「Fermatの小定理の変形」は「Fermatの小定理」の両辺に\(a\)を掛けた形となっています。このように変形しておくと\(a=0\)の場合でも成り立ちます。
\(\mathbb{F}_{p}\)の有限次拡大体
\(\mathbb{F}_{p}\)の拡大次数nの拡大体を考えます。有理数体の拡大体は、有理数体\(\mathbb{Q}\)に有理数係数方程式の根を添加して構成したのと同様に、有限体の拡大体は、\(\mathbb{F}_{p}\)に、\(\mathbb{F}_{p}\)係数の方程式の根を添加するという方法で構成することができます。
そして、拡大次数は、拡大体を、基礎体\(\mathbb{F}_{p}\)上のベクトル空間(線形空間)と考えたときの次数でした。(see.ガロア理論超入門 - 美的数学のすすめ) したがって、拡大次数\(n\)の拡大体の位数は\(p^{n}\)になります。全ての自然数\(n\)に対して位数\(p^{n}\)となる有限体が存在します。
位数\(p^{n}\)の有限体もまた全て同型であることが知られています。これは、有限体の特徴です。有理数体では、2次拡大\(\mathbb{Q}(\sqrt{n})\)だけでも無限にあります。いかに、有限体が、単純で取扱いやすいものか想像できると思います。
同型を除いて1つ定まる位数\(p^{n}\)の体を\(\mathbb{F}_{p^{n}}\)と記します。また、そのうち0以外の元からなる集合を\(\mathbb{F}_{p^{n}}^{\times}\)と記します。\(\mathbb{F}_{p^{n}}^{\times}\)は乗法に関して群をなします。
位数\(p^{n}\)の有限体も、\(\mathbb{F}_{p}\)と全く同様の性質を有しています。(つまり、上記の\(\mathbb{F}_{p}\)の性質は、剰余群\(\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\)の性質というよりは、有限体としての性質であることが分かります。)
(Fermatの小定理)
\(a\in \mathbb{F}_{p^{n}}^{\times}\)に対し、\(a^{p^{n}-1}=1\)(Fermatの小定理の変形)
\(a\in \mathbb{F}_{p^{n}}\)に対し、\(a^{p^{n}}=a\)(原始根の存在定理)
\(\mathbb{F}_{p^{n}}^{\times}\)は原始根\(r\)が存在する。
(つまり、\(p^{n}-1\)乗してはじめて1に元\(r\)が存在する。)
\(\mathbb{F}_{p}\)と\(\mathbb{F}_{p^{n}}\)の関係
\(\mathbb{F}_{p}\)は、\(\mathbb{F}_{p^{n}}\)の部分体となります。\(\mathbb{F}_{p}\)を\(\mathbb{F}_{p^{n}}\)の部分体と考えた場合、\(\mathbb{F}_{p}\)は次のように特徴付けることができます。
\(a\in \mathbb{F}_{p^{n}}\)のとき
\[ a\in\mathbb{F}_{p}\Longleftrightarrow a^{p}=a\]
Fermatの小定理の変形版より\(a\in \mathbb{F}_{p}\)のとき\(a^{p}=a\)が成り立ちますが、逆に\(a^{p}=a\)が成り立つ場合には、\(a\in \mathbb{F}_{p}\)となることが分かります。
次回、使うのはここまでですが、せっかくですのでガロア群もご紹介します。
ガロア群\(\text{Gal}(\mathbb{F}_{p^{n}}/\mathbb{F}_{p})\)の構造
\(\mathbb{F}_{p^{n}}\)から\(\mathbb{F}_{p^{n}}\)へ写像として次のものを考えます。
\[ \phi\ :\ \mathbb{F}_{p^{n}}\ni x\longmapsto x^{p}\in\mathbb{F}_{p^{n}}\]
ここで、\(x,y\in\mathbb{F}_{p^{n}}\)に対して\(\phi(x+y)=\phi(x)+\phi(y)\)が成立します。
なぜなら、 \[ \begin{align} \phi(x+y)&=(x+y)^{p}\\ &=x^{p}+{}_{p} \mathrm{C}_{1}x^{p-1}y+{}_{p} \mathrm{C}_{2}x^{p-2}y^{2}+\cdots+{}_{p} \mathrm{C}_{p-1}xy^{p-1}+y^{p}\\ &=x^{p}+y^{p} \end{align}\] です。最後の等号は、\({}_{p} \mathrm{C}_{1}=p,{}_{p} \mathrm{C}_{2}=\frac{p(p-1)}{2},\cdots\)というように、1より大きい整数\(m\)に対して\({}_{p} \mathrm{C}_{m}\)が\(p\)の倍数になることから分かります。
また、\(\phi(xy)=\phi(x)\phi(y)\)であることも分かります。これらより、\(\phi\)は、\(\mathbb{F}_{p^{n}}\)の自己同型であることが分かります。
さらに、Fermatの小定理の変形版より、\(x\in\mathbb{F}_{p}\)のとき\(\phi(x)=x^{p}=x=\phi(x)\)ですので、\(\mathbb{F}_{p}\) 上の自己同型であることが分かります。つまり、\(\phi\)は、ガロア群\(\text{Gal}(\mathbb{F}_{p^{n}}/\mathbb{F}_{p})\)に含まれていることが分かりました。
この自己同型\(\phi\)をFrobenius自己同型といいます。そしてガロア群\(\text{Gal}(\mathbb{F}_{p^{n}}/\mathbb{F}_{p})\)はFrobenius自己同型により生成されることが知られています。
\[\text{Gal}(\mathbb{F}_{p^{n}}/\mathbb{F}_{p})=\{\phi,\phi^{2},\cdots,\phi^{n}=1\}\]
つまり、ガロア群\(\text{Gal}(\mathbb{F}_{p^{n}}/\mathbb{F}_{p})\)は、位数\(n\)の巡回群であり、Frobenius自己同型がその生成元となります。
ここまで、位数が\(p\)の有限体の\(n\)次拡大を見てきましたが、位数が\(p^{m}\)の有限体の\(n\)次拡大に関しても、上とまったく同じ議論が成り立ちます。
次回、円分体の分解法則に関し、\(\bmod\)が交換されることを見てみます。