美的数学のすすめ

初等整数論のうち、平方剰余の相互法則の意味を当面の目標としたいと思います。ゆくゆくは、ガウス和、円分体論まで到達したいです。

正17角形とガウス周期

 今から219年前の今日、3月30日は、ガウス(Gauss)が正17角形の作図可能性に気がついた日です。そこで、今日は、正17角形の作図可能性について書いてみます。

 1796年3月30日の朝、ガウスは目覚めてベットから起きた刹那に、正17角形が作図可能であると気がついたとされています。当時、ガウスは19歳でした。もちろん、ガウスは、実際の作図方法を思いついたのではなく、原理的に作図可能であることに気がついたのでした。ガウスが気がついたのは、正17角形の頂点を表す式\(x^{17}-1=0\)が、2次方程式を繰り返し解くことにより求めることができることでした。
 その際に、ガウスが用いたのが、後にガウス周期(Gaussian Period)と呼ばれるものです。

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 歳をとってからのガウス

 このことについて、ガウスはガウス日記において次のように書いています。

「正多角形の中で三角形、五角形、十五角形及び変数を次々2倍して生ずるものの作図が可能であることは幾何学の初歩を学んだものは誰でも知っていることで、そこまでは既にユークリッドの時代に来ていたのであるが、その後は初等幾何学ではそれ以上には出られ得ないことと一般に信ぜられていたように見える。少なくとも予はこの方面に於いて更に一歩を進める試みの成功したことを聞かないのである。

 この故に、今上記の正多角形の外になお多くのもの、例えば17角形などの作図が可能であることの発見は注意に値するものと次第である。この発見は実に一層広汎なる或る理論の系題に過ぎないのであるが、その理論はなお少しく未完成のところがあるから完成の上で速やかに発表するであろう。」(近世数学史談 高木貞治)」

 この文面からガウスは単に正17角形の作図可能性に気がついたのみならず、それは大きな理論の単なる一場面(系題)であると考えたことがわかります。この大きな理論とは後にガウスが著した「整数論(DisquisitonesArithmeticae)」において「円周等分論」に結実しました。

 ガウスは、1777年4月30日生まれですので、正17角形の作図可能性に気がついた1796年3月30日は通常の年齢の数え方では18歳11ヵ月だったと思われますが、各種文献やHPでは19歳としているところが多いです。日本語の文献・HPのみならず、英語のHPにおいてもそのように言及されています。ここでは、それに倣い19歳としておきます。

作図可能性

 「作図可能」とは伝統的に(目盛のない)定規とコンパスで作図可能な場合をいいます。

 まず、平面上の2点を任意にとり、一方を0、一方を1とします。そして、0と1を結んだ直線を実軸、0を通り実軸に垂直な直線を虚軸としてガウス平面とします。そして、ガウス平面上で、定規とコンパスとで位置を特定することができる点(直線と直線の交点、直線と円の交点、円と円の交点)を「作図可能」といいます。

 ガウス平面上の2点\(z_{1},z_{2}\)が作図可能であると仮定すると、\(z_{1}+z_{2},\ z_{1}-z_{2},\ z_{1}*z_{2},\ z_{1}/z_{2}\ (z_{2}\ne 0)\)も全て作図可能であることがわかります。(今回は、説明を省略しますが、機会があれば書きたいと思います。)これにより、有理数はすべて作図可能であることが分かります。

 更に作図可能な2点を結ぶ直線、作図可能な2点のうち1点を中心としもう1点を通る円は、作図可能な値を係数とする2次方程式(この場合は、1次方程式も2次方程式の1種と考えます。)ですので、直線と直線の交点、直線と円の交点、円と円の交点は、作図可能な値を係数とする2次方程式の解となっていることが分かります。

 逆に作図可能な値を係数とする2次方程式の解は、定規とコンパスで作図が可能であることが示せます。(ここも今回は、説明を省略しますが、機会があれば書きたいと思います。)

 よって、作図可能な2点を足した値、引いた値、掛けた値、割った値(ただし分母\(\ne 0\))は全て作図可能であることが分かります。また、作図可能な値を係数とする2次方程式の解は、作図可能であることが分かります。この操作は最初0,1の2点から始め、(有限回であれば)何回でも行うことが可能です。

 体の言葉で書くと、有理数体\(\mathbb{Q}\)からはじめて、有理数体\(\mathbb{Q}\)の2次拡大体\(K_{1}\)、\(K_{1}\)の2次拡大体\(K_{2}\)、\(K_{2}\)の2次拡大体\(K_{3}\)・・・と有限回の2次拡大をした\( K_{n}\)の元は「作図可能」となります。
 逆に、作図可能な点は、有理数体\(\mathbb{Q}\)からはじめて2次拡大を有限回行った体の元に含まれます。

 正17角形の作図可能性

 以上より正17角形が作図可能であることと、\(x^{17}-1=0\)が2次方程式のみで解けることとが同値になります。

 ここで、\(\varphi(17)=16\)の約数は、16,8,4,2,1と5つあり、\(n=7,13\)で計算したのと同様に、これら約数のガウス周期を作ることができます。そして、\(f\)周期と\(f'\)周期は、\(f'\)が\(f\)の約数のとき\(f'\)周期は\(f\)周期を係数とする(正確には有理数体に\(f\)を付加した体の元を係数とする)方程式の解として表されます。そしてこのときの方程式は、\( f/f'\)次となります。

 具体的には、8周期は16周期を係数とする2次方程式となり(16周期\(=-1\)ですので16周期を係数とする2次方程式とは有理数係数の2次方程式を意味します。)、4周期は8周期を係数とする2次方程式で表せ、2周期は4周期を係数とする2次方程式で表せ、最後に1周期(これは、1の17乗根そのものです。)が2周期を係数とする2次方程式で表されることにより、1の17乗根は有理数からはじめて2次方程式を有限回解くことによって得られることが分かります。

 これにより、正17角形が作図可能であることが分かりました。

正多角形の作図可能性

\(n\)が素数のとき

 上記と同様の考察により、\(p\)が素数のとき正\(p\)角形が作図可能であるか否かは、\(\varphi(p)=p-1\)が\(2^{n}\)の形のときに限ります。

(ガウス)

 \(p\)が素数のとき正\(p\)角形が作図可能であることの必要十分条件は\(p\)が\(p=2^{n}+1\)の形に表せることである。  

 「作図可能」=「2次方程式を繰り返し解くことにより求めることが可能」ですので、\(\varphi(p)=p-1\)が、2のべき乗になることが重要なポイントであることは容易に想像できます。

 加えてもう一つのポイントは、\(p=2^{n}+1\)としたときの\(p\)が素数となることです。例えば、\(2^{3}+1=9\)ですが、正9角形は作図不能です。(\(\varphi(9)=9-3=6\)ですので、1の9乗根を求めるには2次方程式と3次方程式を解く必要があります。(なお、正9角形ですら作図不能=60度というありふれた角度でさえ3等分は不可能という事実に直面すると、ガウスがガウス日記に(控えめに)記したとおり、正17角形の作図可能性の発見は、ギリシア以来の大事件であったに違いありません。しかし、ガウスにとっては、それすら、大きな理論の単なる具体的な1場面に過ぎません・・・)

   なお、\(p=2^{n}+1\)が素数となるのは、\(n\)が2の素因子しか持たない場合に限ります。(なぜなら、\(n\)が奇素数を因子として持つと仮定し\(n=2^{m}s\)(sは奇数)とすると、\(2^{n}+1=(2^{2^{m}})^{s}+1\)は\( (2^{2^{m}}+1)\)で割り切れてしまいます。)したがって、\(n=2^{m}\)と書けます。そして、一般的に、\(2^{2^{m}}+1\)のことをフェルマー数(Fermat number)といいます。フェルマー(Fermat)は、フェルマー数の最初の5つ(\( m=0,1,2,3,4\)の場合)を計算し、フェルマー数はすべて素数であると予想しました。しかし、その百数十年後、オイラー(Euluer)によって、\(m=5\)のとき、\(2^{32}+1=4294967297= 641\times 6700417\)であり素数でないことが判明しました。現在のところ、フェルマーの予想とは逆に\(m>4\)のときにフェルマー数が素数となる例は発見されていません。

 フェルマー数という用語を用いれば、正多角形の作図可能性は次のようにあらわされます。

 \(p\)を素数とする。正\(p\)角形が作図可能であるとき、\(p\)はフェルマー数である。

 逆に、フェルマー数\(p\)が素数である場合、正\(p\)角形は作図可能である。

 フェルマー数は上記のとおり、現在でも5つしか見つかっていないことから、正\(p\)角形が作図可能な場合も5つしか見つかっていません。現在のところ作図可能な5つとは、正3角形、正5角形、正17角形、正257角形、正65537角形です。

 ガウスは\(n\)が合成数の場合の正\(n\)角形が作図可能となる条件も求めています。この点は別の機会に説明したいと思います。